352.折衝の開幕
結局、アヴァロン2に残ったのは、バトラーの元兵士10名とバレルの精鋭部隊5名だけだった。
バレルが集めてきた30名の素行の悪い者たちは、全員アジトへ帰るという名目でアヴァロン2を離脱していった。
このタイミングで、バレルの元にバトラーから緊急通信が入った。
『バレル! お前、何を指示した?皆、どこかへ行ってしまったぞ!』
「はい、バトラー様。その件で至急お話ししたいことができました。すぐにそちらにお伺い致します」
通信を切ると、バレルは側に立つミュートとミュリアに声をかけた。
「ついてきてくれ」
移動中のエレベーターの中で、バレルはこの先に待ち受ける交渉を控え、震えていた。
その時、ふっとバレルがミュートの手を握った。
少し驚いたミュートだったが、バレルの手から伝わる震えに気づき、ミュートもその手を握り返した。
『なかなかいい感じですね⋯』
リベラがミュリアの通信機越しに語りかけてきた。
「うるさい!」
ミュリアは大声で返した。
驚いたバレルとミュートがミュリアの方を見る。
「あっ、違うの! あなたたちに言ったわけじゃないの!」
しどろもどろになりながら弁明するミュリアを見て、バレルは少しだけ緊張がほぐれるのを感じた。
⋯
「バレル。やっと来たか!」
部屋に入ってきたバレルへ近づくバトラーは、すぐに後ろに控えるミュートと見知らぬ女性の存在に気づいた。
少しぽっちゃりとした女性で、バトラーとしては少し好みのタイプだった。
しかし、今はそれどころではないとバレルに詰め寄る。
「説明しろ! 何が起こっているんだ!」
バレルは至って冷静に語り出した。
「バトラー様に仇なす者たちをここから排除しました。まずは、こちらをご覧ください」
そう言うと、正面の大型モニターにアヴァロン2とバトラーの拠点を結ぶ宇宙図を表示した。
「私は配下の者たちに、レアメタルの入った箱を先ほど拠点に運ぶよう指示を出しました」
アヴァロン2を飛び出した宇宙船は、まっすぐバトラーの拠点に向かって⋯
⋯は、いなかった。
どの船もバラバラの航路を辿り、思い思いの惑星に向かっているようだった。
「どういうことだ? ぜんぜん拠点に向かっていないではないか!」
バレルは冷静さを崩すことなく続けた。
「はい。ですから先ほど申し上げましたように、信用のできない者たちをアヴァロン2から排除したのです」
「その結果、レアメタルを持ち逃げされたというのか?」
ふつふつと怒りを募らせるバトラーに対し、バレルはどこまでも平然としていた。
「少し認識が間違っておられるようです。持ち逃げされたのでしたら、このモニターに表示されている情報はどういうことでしょう?」
バトラーはバレルの言葉を受け、再度モニターの映像を注視し、ある事実に気づいた。
「た、確かに、逃げられてはいないな。皆、完全にトレースされているようだ。コレは一体どうやって?」
「彼女の技術をお借りしています」
バレルは隣に立つ女性を指し示した。
「バトラー様、お初にお目にかかります。私はこのアヴァロン2を管理しているミュリアと申します」
それを聞き、体をビクリと震わせるバトラー。
「⋯ということは、お前はリベラの仲間なのか?」
「はい。ですが、私はリベラからバトラー様との和解調停をお願いされて来ました」
ミュリアが優しい笑顔で語りかけると、バトラーもまんざらではない様子で、話を続けるようミュリアに促すのだった。




