355.動き出す未来
式典の喧騒を後にし、さっそく軌道エレベーターの搭乗口へと向かうエドワードとミネルヴァ。
目の前に鎮座するエレベーターのケージは、およそ大型トラックが2台丸ごと収まるほどのサイズを誇っていた。
これが2機、絶妙なバランスで常に上下する仕組みになっている。
エイドスの歴史的な初稼働を紹介するため、ケージ内にはエドワードとミネルヴァのほかに、密着取材のアナウンサーとカメラマンが1人ずつ乗り込んでいた。
中継用のカメラを構えた2人は、世紀の瞬間にかなり興奮している様子だった。
ケージ内に乗せられた大型キャンピングカーの前に来ると、ミネルヴァがぴしゃりと彼らを制した。
「ここから先は社長のプライベートエリアとなりますので、立ち入りはご遠慮ください。中継はそちらの展望スペースからお願いいたします」
「あ、はい! 了解しました!」
さすがにキャンピングカーの内部までは入れてもらえず、アナウンサーたちは大人しくガラス窓の方へと下がっていった。
2人を外に残し、エドワードとミネルヴァはキャンピングカーのドアを開けて中に入った。
⋯
内部の電気がつくと、室内に人影があることに気がつく。
「誰?」
ミネルヴァがエドワードをかばうように前に立つ。
よく見ると、それは身長が1メートルぐらいの小柄なロボットだった。
ミネルヴァはその姿に見覚えがあった。
「あなた⋯たしかアイリスさんのロボットね?」
『そう』
答える声はアイリスのものだった。
アイリスがこのロボットを遠隔操作していた。
「アイリスさんは確か入院中だったのでは?」
ミネルヴァが聞くと、今病院にいると答えるアイリス。
「ここには何をしにきたのですか?」
ミネルヴァの質問にロボットは戸惑う。
『ちょっと、ステーションに行きたくて⋯』
「何のために?」
『⋯』
黙り込むロボットの気になる行動に、ミネルヴァは少し緊張の色を浮かべた。
⋯
一方、アヴァロン2の会議室
地上から軌道エレベーターで戻ってきたリベラとメイリン、さらにギルバート、バトラー、ミュリアが一同に集まり打ち合わせをしていた。
リベラはバトラーに対し、戦場でレイナードたちの救命ポッドを発見してエイドスへ牽引してきたこと、そして今はアヴァロン商事が管理する病院で治療していることを説明した。
バトラーはバレルから彼らが死んだと聞かされていた。
彼らを救出してくれたことに心からの感謝を述べた。
対戦相手であったギルバートは、裏でそんなことが起こっていたのを今さらながらに知り、どこか複雑な表情を浮かべていた。
バトラーの方は目の前の男が戦っていた相手だとは知らないため、周囲の視線も気にせず感情的に礼を言い続けている。
「バトラー様、これで星間警備会社の立ち上げに必要な要員も一気に揃いますね」
「おお、そうか、たしかに。あいつらが無事なら、心強い!」
バトラーは力強くうなずき、再び感無量の面持ちで深く息を吐いた。
バトラーの代理として、続けてミュリアがリベラに切り出した。
提案のあった『星間警備会社の運営』をバトラーが担当する代わりに、当面の運営資金や宇宙船の調達費用、そして事務所としてアヴァロン2の一部エリアを無償提供してほしいとお願いする。
するとリベラは、何の躊躇もなくその場で端末を操作した。
「当面の資金として100億クレジットを転送しました。事務所となるエリアの提供も承諾いたします」
「確認しました」
手際よく答えるミュリアの声と同時に、脇で飲んでいた水を口から豪快に吹き出し、激しく咳き込んだのはギルバートとバトラーだった。
「お、お前! 俺が稼いだ金をそんな簡単に振る舞うなよ!」
ギルバートが怒ったような口調でリベラに詰め寄るが、当のリベラには全く響いていない。
「宇宙船についてはセレノグラフィアに話を通しておきます。必要なだけ建造してください」
「おい! 聞いてるのか!?」
ギルバートの必死な反応を完全に無視し、さらなる巨額の出費についてあっさりと許可を出すリベラであった。




