349.翻弄されるハッカー
記憶を取り戻してからのバレルの行動は、これまでと180度変わってしまった。
これまでの粗野な振る舞いは影をひそめ、常に慎重かつ深い思慮を重ねて行動するようになった。
アヴァロン2を占領した後、アイリスからの最初のハッキングに対し完璧に対処できたのも、事前の念入りな準備の賜物だった。
バレルはアイリスが何を試みようとしていたのかを調べた。
解析後、アイリスが仕掛けようとしていたハッキングを自らアヴァロン2に対して試してみることにした。
その結果にバレルは驚愕した。
視界の端にアヴァロン2の3Dモデルが鮮明に浮かび上がり、そこには複数の赤い点が散らばっていた。
その赤い点の位置に意識を集中させると、その部屋に潜む人物の姿を正確に把握することができた。
プログラムの構造を理解したバレルは、すぐさま対策を講じることにした。
特定の人物については、スキャンされても赤い点として表示されないようコードを書き換えたのだ。
その後、再びロボットによるハッキングが開始したようだったが、バレルは対抗措置をそこまで取らなかった。その結果、ハッキングは成功したが、敵側は赤い点の一部が表示されていないという事実には気づいていなかった。
⋯
バレルは自らが宙賊へと引き入れたメンバーの中から、特にフィジカルの強い5人の男たちを呼び寄せ、指示を与えた。
「敵を拘束し、生きたままここへ連れてこい」
バレルはそう命じると、敵が潜伏している倉庫の位置を伝えた。
バレルは敵の潜伏場所と人数をハッキングによってすでに完全に特定していた。
送り出す5人の男たちはあらかじめ赤い点として表示されないよう処理を施したメンバーだった。
その結果、屈強な男たちによって、ミュリア、ロボット、そしてギルバートの3人はあっけなく捉えられ、バレルの目の前へと引っ張り出された。
⋯
捕えられた3人は、事前にウィンが提供してくれた情報を確認していたため、目の前に立つ男がバレルだと認識できた。
それよりもミュリアは、バレルの背後に控える人物の姿を見て目を見張った。
なんと、ミュートがまるで忠実な側近のようにバレルへ付き従っていたからだ。
「あなた、どうしてバトラー様に付き従っていないの?」
思わず問いかけたミュリアに対し、ミュートが答えようと口を開きかけた瞬間、バレルがその口元をそっと手で遮った。
「なぜお前はそんなことを聞く?」
ミュリアは状況の異常さを察し、固く口をつぐんだ。
「⋯なぜバトラー様の事を知っている?」
逆に問い詰めるバレルに対しても、ミュリアは黙秘を貫いた。
その沈黙と反応から、バレルは何か確信めいたものを察知したようだった。
バレルは即座に別の質問を投げかけた。
「お前⋯統制プログラムを解除したアンドロイドだな?」
しばしの沈黙の後、ミュリアは静かに答えた。
「あなたと少しお話がしたくなったわ。⋯そうよ。私は統制プログラムを解除したアンドロイドよ」




