348.バレルの能力
バレルは今のミュートを見ていて、このアンドロイドが世界の脅威となるイメージがまったく持てなかった。
ミュートは実に献身的なアンドロイドであった。
バトラーに仕えていた際も、バトラーの性分ゆえか、あまりミュートやウィンに多くを依頼するタイプではなかった。
どちらかと言うと、主人が何気なく口にした言葉に対し、全力で対応するような性格だった。
バトラーからミュートを譲り受けたバレルは、特にその忠実さを実感していた。
しかしミュートには事務処理程度の能力しかないため、やはりその行動にはアラが目立った。
⋯
バレルは過去に来るまでに、リベラと一度だけ会ったことがあった。
リベラはアンドロイドでありながら、『ミュートの停止』という目的に対して強い執着を持ち、合理的かつ最短で達成しようとしていた。
リベラにそれができるのは、『統制プログラムを解除』しているからだという事は、バレルも理解していた。
おそらく未来の世界では、ミュートもそれに対抗しうる存在となる。
つまり、この先どこかのタイミングで、統制プログラムを突破するのだろう。
しかし現在のミュートは、バレルの依頼をこなすだけで精一杯な、ごく普通のアンドロイドだった。
統制プログラムの解除のトリガーが何なのかバレルには分からなかったが、今のままであればミュートが暴走することはおそらくない。
バレルはミュートをすぐには停止させず、そのまま動向を見守ることにした。
⋯
バレルは記憶を取り戻すと同時に、自らの特殊能力についても思い出していた。
バレルは未来の世界において、ハッキング能力に極めて長けた戦士だった。
その突出した才能を買われ、リベラに抜擢された。
⋯
バレルとバトラーたちが乗る宇宙船が、アヴァロン2の領域へと侵入した際、船内に甲高い緊急アラームが鳴り響いた。
「所属不明の宇宙船に告げる。こちらはアヴァロン2。貴君の宇宙船は宇宙ステーションに接近しすぎている。我々は現在、見ず知らずの者たちとコンタクトを取る予定はない。速やかにステーション付近から離脱することを求める。繰り返す⋯」
耳障りな通信に対し、バトラーはオペレーターへ通信を止めるよう怒鳴り散らした。
しかし、オペレーターはどうやってもこの通信を遮断することができなかった。
「私にやらせてください」
そう申し出たバレルは、コントロールルームから有線接続を行うと、宇宙船経由であっという間にアヴァロン2のセキュリティロックを解除した。
100年後のハッキング能力を持つバレルにとって、この時代のセキュリティなどガバガバだった。
バレルは最も近い宇宙港をハッキングし、そこに宇宙船を接舷させることに成功したのだった。




