342.バレルの記憶
44章のあらすじ
登場人物:リベラ(船のAI、女性)、ミュリア(元ミュート、AI)、ウィン(バトラーの配下、AI)、アイリス(22歳、ハッカー、女性)、ロボット(アイリスの意思を持つロボット)、ギルバート(30代、商人、男性)
エイドスへ向かう途中リベラたちは、バトラーの副官であるレイナードらを救出する。レイナードは、リベラから配下の安全と星間警備会社の話を聞き、協力を決意する。リベラはアヴァロン2に到着後、レイナードらを軌道エレベーターで地上へ下ろし治療する。その際、レイナードからバトラーの側近『バレル』の情報を得るも、ミュリアの知る歴史に存在しない人物だと気づく。アヴァロン2を調査中、アイリスが重傷を負う。窮地に陥るリベラたちだったが、クリストが、空間転移でメイリン、ロボット、ギルバートをアヴァロン2へ転送してくれる。ロボットはアイリスに変わり宙賊たちの情報を把握することに成功。エドワードを救出すべく敵のアジトへ潜入したリベラとメイリンは、相手を無力化し、エドワードの保護に成功する。しかし、犯人グループはバトラーとは無関係の誘拐犯だとわかり、バトラーの問題は未解決のまま。
3年前、セレノグラフィアの薄暗い路地裏で、『バレル』は目を覚ました。
自身が何者なのか、なぜこの場所に倒れているのかもわからない。
失われた記憶の底で、「ミュートを停止させろ」という指示だけが鮮明に刻み込まれていた。
それが誰からの命で、ミュートとは何者なのかすら不明なまま、狂おしい使命感だけが胸を支配していた。
身寄りのないバレルを救ったのは、ヘキサ・ヤードという小さな会社を営むガルドという無骨な男だった。
ガルドは、男に温かい食事と居場所を与えた。
当時、セレノグラフィアの造船はゼニス重工、ネクサス・システムズ、ポアレス・ダイナミクスの3大企業が牛耳っていた。
下請けとして仕事をしている間は問題なかったが、ガルドが造船会社を立ち上げようとした途端、その平穏は崩れだした。
ネクサス・システムズと繋がり、セレノグラフィアの裏稼業を仕切る『バルガス』が牙を剥き始めた。
彼らによる執拗な嫌がらせや卑劣な脅迫が、静かにガルドたちを追い詰めていた。
バレルはガルドたちを守るため、自らバルガスの組織へと足を踏み入れる。
以外にもバレルは裏社会で危険な立ち回りを無難にこなしながら、陰でガルドやミラの命に危険が及ばないギリギリのところでサポートをしていた。
しかし、記憶に刻まれた指示の方は行き詰まりを見せていた。
そんな折、バレルはボレアス・ダイナミクスの私設宇宙軍を率いるバトラーという男を知る。
さらに。調査を進める中、バトラーの側近に「ミュート」と呼ばれるアンドロイドがいるという情報を入手した。
だが、生い立ちの不透明なバレルが入隊できるほど私設宇宙軍は甘くなく、かつ、1人で軍に正面から挑む事など到底不可能であった。
⋯
運命が動いたのは、アンドロイドを連れた『佐々木』という男がガルドのもとを訪れた時だった。
大型客船の建造のため、彼は自分たちの拠点へガルドに来てほしいと話を持ちかけてきた。
バレルが宇宙軍の知り合いを通じてこの情報を流すと、初めてバトラー本人からバレルの元に連絡が入ってきた。
「佐々木たちの拠点に潜入し情報を引き出せば、軍に取り立ててやる」
バレルに与えられた最初の任務は、スパイ活動であった。
ガルドたちに同行して足を踏み入れた「拠点」は、そんな可愛らしいものではなかった。
そこはアヴァロン。
20年ほど前に陥落した要塞の設計士たちが集い、2度と落とされぬ要塞を目標に作られていた。
バレルはその詳細な構造や防衛データをバトラーに送った。
要塞内には少数の老人と女性しかいないことを知ると、バトラーはいたく機嫌を良くし、即座に宇宙艦隊へアヴァロンの強奪命令を下した。




