341.虚しい徒労
この章のこれまでのあらすじ
エイドスへ向かうリベラたちは、戦場跡地で大量の救難ポッドを発見し、バトラーの副官であるレイナードらを救出する。レイナードは、リベラから配下の安全と星間警備会社の話を聞き、協力を決意する。アヴァロン2に到着後、ウィンとレイナード、その配下の者たちを軌道エレベーターで地上へ下ろす。その際、レイナードからバトラーの側近『バレル』の情報を得るも、ミュリアの知る歴史に存在しない人物だと気づく。
アヴァロン2を調査していたアイリスがバレルの逆ハッキングを受け重傷を負う。窮地に陥るリベラたちだったが、アヴァロンへ着いたロボットからの情報をもとにクリストが準備を進めており、空間転移でメイリン、ロボット、ギルバートがアヴァロン2で合流する。ロボットはアイリスに変わりハッキングで敵の猛攻を破り、宙賊たちの位置と動線をリアルタイムで把握することに成功する。リベラは地上でバレルの情報を探り、バレルが先の未来から来た存在だと推測する。
「なんか前もこんな事、あったよね」
現地でリベラと合流したメイリンが気さくに話しかける。
その映像は周囲の監視カメラをロボットがリアルタイムでトレースしていた。
それを事務所にいるバロウズ、バルガス、ミネルヴァたちだけでなく、アヴァロン2のコントロールルームにいるギルバート、ミュリア、ロボットたちへも中継され、まるで映画鑑賞でもするように全員が息を呑んで見守っていた。
「セレノグラフィアでバルガスさんの事務所に押し入った時のことですね」
リベラが平然と言うと、急に名前を挙げられたバルガスがビクリと体を震わせた。
「そうそう!中に入るとソイツが『お前ら、ココがどこだか分かってんのか?タダで帰れるなんて思うなよ!』とか言って脅してきたよねー」
と笑顔で懐かしむメイリン。
映像越しにそれを見せられているバルガスは、滝のような汗が止まらなくなっていた。
隣に立つバロウズがそっとバルガスの肩に手を置いた。
言葉には出さないものの、バロウズもまた、初対面の際にリベラを威嚇して手痛い仕返しを食らった被害者の一人だった。
⋯
古びた倉庫の入口前。
メイリンが重厚な扉を数回叩くと、ガラガラと小窓が開いた。
「なんだ?」
中からガラの悪そうな男が顔を覗かせる。
「耳寄りな情報を持ってきたんだ。ここを開けてくれよ」
メイリンが小者感を出しながら哀願すると、男は小窓から2人を品定めした。
「フン⋯」
女2人で大した真似はできまいと、扉を開けた。
2人を中に引き入れると、男は後ろ手でガチャリと重い鍵を閉める。
映像は、リベラに帯同していた小型ドローンの視点へと切り替わった。
5台のドローンが静かに分散し、順々に室内を捉えるベストなアングルへと配置についていく。
倉庫の中央、古びたソファに深々と腰掛けた男が口を開いた。
「なんだお前たちは?」
引き入れた男が代わりに揉み手で応える。
「耳寄りな情報があるって言うんで、引き入れやした」
それを聞いた中央のボスらしき男は、心底つまらなさそうに言った。
「話してみろ。つまらん話だったら、相応の落とし前をつけてもらおうか」
それを聞き、周囲を取り囲む配下の者たちが下卑た笑い声を上げた。
しかし、怒涛の威圧を受けても二人はいっこうに口を開かない。
やがて、メイリンが呆れたようにポツリと呟いた。
「ヤバいな⋯」
「ええ、これは想定外ですね」
リベラも淡々と同意する。
「何を言って⋯」
中央のボスが苛立ちを露わに口を開こうとした瞬間、メイリンが手でそれをビシッと制した。
「エイドスの裏は『バルバロッサ』が仕切ってるのを知らないの?」
それを聞き、ボスの顔から余裕が削げ落ちる。
「な、何を言っている!ここいらは俺の⋯」
今度はリベラが静かに手を差し伸べて制した。
「バルバロッサの『シマ』です。ここで勝手な真似をすると、大変な目にあいますよ!」
周囲を見渡すリベラの視線と目が合った男たちは、ビクリと体を強張らせた。
「男を拉致したよな。誰からの指示で動いたのか教えろ。今なら穏便に許してやる」
メイリンがボスの目の前へ歩み寄り、堂々と告げる。
「っ⋯たった2人で何ができる?」
あまりの圧迫感に耐えかね、叫ぶように声を張り上げるボス。
リベラが静かに一歩前へ出た。
「そうですね⋯」
そう言って右手をスッと高く掲げた。
「たとえば、こんなこととか」
つぶやくと同時に、掲げた手のひらを握りしめるポーズを取った。
その瞬間、ボスの後ろに立つ男たちが、一斉に気を失って床へ崩れ落ちた。
⋯
「な、何が起こったんだ!?」
事務所のモニターで一部始終を見ていたバルガスは、絶句した。
何が起きたのかまったく理解できない。
バロウズもまた、リベラと最初に対面した際にまったく同じ現象で叩きのめされていたため、そこまで驚きはしなかったものの、カラクリ自体は分からず首を捻るばかりだった。
「おそらく、周囲を滞空しているドローンが何らかの攻撃を仕掛けたのでしょうね」
ミネルヴァが冷静に分析し、解説を加えた。
⋯
背後で響いたドサドサという不穏な連続音に驚き、勢いよく振り返るボス。
「お、おい!お前たちどうした!?」
必死に声をかけるが、返事をする者は誰一人としていない。
「まだ続けますか?」
リベラの氷のように澄んだ声が響く。
ボスは体を硬直させ、ゆっくりと2人の方へ視線を戻した。
「協力してくれるなら、あなたには危害を加えません」
語りかけるリベラ。
「えっ⋯ボスだけ!?」
すると、2人を倉庫へ引き入れた後ろの男が悲鳴のような声を上げた。
「あなたにも危害は加えませんよ。ボスが素直に協力してくれるなら⋯」
リベラの言葉を聞いた男は、すがるような眼差しをボスへと向けた。
⋯
リベラとメイリンは、倉庫の奥の部屋で眠らされているエドワードを無事に見つけた。
強い薬で眠らされているため、メイリンが担ぎ出し、その場を後にした。
倉庫を出ると、ミネルヴァが手配してくれた車がすでに路上で待機していた。
それに乗り込み、アヴァロン商事御用達の病院へと急送した。
⋯
「警察は本日、最近エイドス周辺で頻発していた連続誘拐事件のアジトを特定し、犯人グループを検挙しました」
エドワードが安らかに眠る病室の外、廊下の大型モニターには、倉庫から次々と連行されていく男たちと、担架で運ばれる人たちの姿が映し出されていた。
「バトラーとは無関係だったなんて。このタイミングで紛らわしい事件を起こすなよな」
メイリンの呆れた独り言が、静かな病院の廊下に虚しく響き渡った。




