336.侵入者の報復
「さて、2人でどうする?」
ミュリアがリベラに話しかける。
「そうですね。アイリスさんに連絡を取ってみましょう」
リベラは再び秘匿回線を使用し、アイリスに連絡を取った。
『⋯あっ、リベラ。何か用?』
画面の向こうで、アイリスがやる気のない声で応じる。
「少し手伝ってほしいのですが」
『えー⋯今、忙しいんだけど⋯』
あからさまに嫌そうな態度をとるアイリスに、リベラは平静を保ったまま切り出した。
「あなたの弟のカイト君が誘拐されそうになったのはご存じですか?」
『⋯う、うん。なんか大変だったみたいだけど』
「それを阻止してカイト君を助けたのは、私達です」
『⋯えっ?』
アイリスの動きがぴたりと止まった。
「さらに今はギルバートさんにお願いして、カイト君をアヴァロンで安全に保護してもらっています」
『あ⋯そ、そうなの⋯?』
アイリスは目を丸くすると、モニター越しに深く頭を下げた。
「そうなの⋯?」
リベラはアイリスが発したセリフをイントネーションまで完全にオウム返しした。
『あっ⋯いや、カイトを助けてくれて、ありがとうございました!』
「いえ、どういたしまして。⋯お返しと言ってはなんですが、ひとつ手伝っていただけますか?」
『うん!何でもする!』
先ほどまでの怠惰な雰囲気は一変し、アイリスは素直にリベラの指示を聞いた。
「今、アヴァロン2がどの程度宙賊に占拠されているか、調べてもらえませんか?」
『了解!すぐ調べる!』
⋯
アイリスが操作を始めると、モニターの画面が一変した。
アイリスの映像が小さくなり、変わりにゆっくりと回転するアヴァロン2の精密な3D映像が表示された。
小窓の中のアイリスが操作すると、各エリアのカメラをハッキングし、内部にいる者たちを調べていく。
球体の3D映像のあちこちに赤い点が点灯し、それが少しずつ増えていった。
「この宙賊たちは何?」
『バトラーという男の配下の者たちです』
リベラが通信越しに教えた。
『バトラーは以前から我々と敵対しています。彼の指示でカイト君は誘拐されそうになりました』
リベラの言葉に、アイリスはビクリと反応した。
「カイトを⋯コイツらが⋯」
その直後、検索スピードが倍以上に跳ね上がった。
弟を脅かした者たちへの憤りで、アイリスは完全に本気になった。
区画の検索率が60%を超えた頃、ある特定の部屋で検索がぴたりと止まった。
「ん?なんだ?」
アイリスは不用意に検索を続け、内部へ深く踏み込んだ。
その瞬間、機械のフィルターを通したような歪んだ声が逆流してきた。
「⋯オマエ、アイリスダナ⋯」
アイリスの検索アクセスは、その声の主によって完全に遮断されていた。
「ワレワレノ⋯ジャマヲスルナ!」
警告と共に、急速に通信回線をデータが逆走した。
強力な負荷により、アイリスの首の後ろに装着された接続デバイスから激しい火花が散り、ショートを起こした。
「きゃぁ!」
⋯
「アイリスさん、どうかしましたか!?」
リベラが呼びかけるも、応答はなく通信は途絶えたままだ。
やむを得ず地上のミネルヴァに連絡を取り、アイリスの状況確認を依頼した。
数分後、ミネルヴァからアイリスが意識を失い病院へ搬送されたという報せが入った。




