334.交錯する疑惑
エイドスまであと1日とせまった頃。
治療のおかげで少し元気になったレイナードは、、モニターに表示された脱出ポッドの乗員たちの名前を眺めながら考え込んでいた。
「何か気になる点でもありましたか?」
リベラの静かな問いかけに、レイナードの肩がぴくりと跳ね上がった。
レイナードは、言葉を探すように視線を左右に泳がせる。
「⋯いや、なんでもない⋯」
そう言ってレイナードは逃げるように視線を画面に戻した。
そのあからさまな葛藤と警戒を冷徹に見抜いたリベラが、切り出した。
「ウィンさんに聞いたのですが⋯救助した方はみなさん、元宇宙艦隊所属の方のようですね」
「⋯!?」
レイナードがキッとした目つきでウィンを睨みつけると、ウィンは目をそらした。
「何か意図的なものを感じますね。救命ポッドも軍属以外の方たちだけを回収したのかもしれません。⋯でも、誰が、なぜ、そんな事をしたのでしょう?」
リベラの問いに、レイナードはさらに深く考え込む。
「⋯たとえば、誰かがバトラーさんの周りの人達を入れ替えようとしているとか?」
リベラの言葉に、レイナードは何か気になることがあったようだ。
しかし、やはりリベラたちを信用しきれていないレイナードは何も語らなかった。
「そういえば、ウィンさん。カイト君を誘拐しようとした方々は暴力的な方が多かったですね。あの方たちは元軍属の方ですか?」
リベラはレイナードの方をわざと見ながら、ウィンに質問をした。
「セレノグラフィアの病院や空港で、平気な顔で銃を乱射してましたから」
リベラの話に驚くレイナードは、「そうなのか?」とウィンに問い詰めた。
「はい。ですが、あれはバレルが連れてきた⋯」
思わず余計なことまで口にしてしまうウィン。
その名が出た瞬間、レイナードの顔つきは一層険しくなった。
「どうやら、バトラーさんの配下は一枚岩ではないのかもしれませんね」
リベラに痛いところを突かれ、レイナードは苦々しい表情を浮かべるしかなかった。
⋯
リベラたちを乗せた宇宙船は予定通り、軌道エレベーターの完成式典の1日前にアヴァロン2に到着することができた。
軌道エレベーターは完成したが、アヴァロン2の完成はまだ数ヶ月かかる予定だ。
直径80キロに及ぶアヴァロン2は、現在もそこかしこでロボットによる建設が続いていた。
リベラは宇宙船をアヴァロン2に接舷させると、軌道エレベーター経由の秘匿回線で地上のミネルヴァに連絡を取った。
『リベラさんですか?どうしてこちらに?』
ミネルヴァの質問を制し、リベラは速やかに軌道エレベーターの利用許可を取り付けた。
リベラはレイナードの方を見て話しだした。
「レイナードさんは救命ポッドと共に地上に降りてください。彼らを助ける代わりと言ってはなんですが、問題が解決するまで皆さんの行動はアヴァロン商事で管理させていただきます。レイナードさんはその協力をお願いします」
リベラが告げると、レイナードは致し方なしという顔で重々しく頷いた。
「それと、ウィンさん」
続けてウィンの方を向くリベラ。
「あなたもレイナードさんに付いて地上へ降りてください」
リベラの指示に驚くウィン。
「でも、そうなるとあなた達2人だけでバトラー様たちと争う事になるのでは?」
ウィンはリベラにすがるような眼差しで訴えた。
「ですが、あなた。統制プログラムの解除はできていませんよね?」
リベラの冷徹な質問に、ウィンは体を固くした。
「残念ながら、今のあなたに背中を任せることはできません。残念ですがここでお別れです」
拒絶されたウィンは、今度はミュリアの方をすがるように見つめた。
しかし、ミュリアもまた静かに首を振る。
「私も、今のあなたを完全には信用はできない」
その容赦ない一言に、ウィンは底知れぬ絶望を感じた。




