329.副官の決意
レイナードは見知らぬ宇宙船のベッドで目を覚ました。
視界が歪み、見覚えのない天井と機械音に一瞬だけ身体が強張る。
だが、すぐ傍らにアンドロイドの姿を捉え、少しだけ警戒を緩めた。
「ウィンか?ここは一体⋯」
安堵しかけたその時、ウィンの隣の見知らぬ女性に視線が止まる。
バトラーの陣営にはいないアンドロイドに、レイナードの背筋に微かな緊張が走った。
「⋯誰だ?」
訝しげに眉をひそめたレイナードの視線が、さらにその奥のもう一人の人物へと向けられる。
次の瞬間、彼の表情から余裕が完全に消え失せ、全身の血が引いていくような強い警戒感が室内を支配した。
「リ、リベラ⋯か!? なぜ貴様が生きている!?」
宿敵の姿を視界に捉え、驚きと激しい警戒から強引に身体を起こそうとする。
傍らにいたミュリアが、レイナードの身を案じ、優しく押さえつけた。
「アナタは長い間宇宙を彷徨っていました。まだ起きてはいけません」
しかし、レイナードは警戒のあまりミュリアの言葉を無視し、ウィンへ向かって大声を上げた。
「ウィン!コイツは敵だぞ、今すぐコイツを拘束しろ!」
バトラーの副官であるレイナードからの強い要請を受け、ウィンのプログラムが反応する。
本来なら指示に従い制圧行動を起こすべきだが、ウィンは『意思』の力で押しとどまった。
「レイナードさん⋯少し話をしませんか?」
「お前となど話すことはない!」
レイナードの冷たい対応に対し、リベラはすっと声のトーンを落とした。
「⋯そうですか⋯」
言葉以上に重苦しい無言の威圧が室内に満ちていく。
「ヒッ⋯ま、待て! 話を聞こうじゃないか。うん、うん」
その圧倒的な気配に恐れをなしたレイナードは、あわてて姿勢を正した。
⋯
「私たちはバトラーさんと同盟を結びたいと考えています」
リベラから飛び出したその言葉に、レイナードは耳を疑った。
これまでの血みどろの関係からして、絶対に相容れない相手だと思っていたリベラの方から、まさかそのような提案がなされるとは信じられなかったのだ。
「どういうことだ? 海賊と裏で手を組むということか?」
セレノグラフィアにおいて、リベラたちがドレッドノートと手を組み、裏から街を牛耳っていたことはレイナードすら知っている事実だった。
それの宇宙において同じような関係を新たに築こうとしているのかと、レイナードは皮肉な笑いをリベラに向けた。
「いえ、バトラーさんたちには新たな『表』の役職を用意しようと考えています」
「⋯一体どんな?」
「エイドスに新設予定の星間警備会社です」
リベラは構想の全貌を、レイナードに向けて具体的に語り始めた。
現在制作が進んでいるエイドス上空のアヴァロン2は、近隣惑星とのハブステーションとして、今後爆発的に商業規模を拡大していく予定であること。
安全な商業活動をサポートするため、民間の警備会社を新設する計画があること。
元宇宙艦隊総司令官としての卓越した経験を持つバトラーをその会社の社長に据え、配下のメンバーを警備会社所属の傭兵として、商船の護衛業務に就かせたいと考えていること。
「あなたはバトラーさんの隣で副司令官を務めておられたとか」
リベラはウィンから、レイナードが現在の海賊稼業に強い嫌気を感じつつも、バトラーへの忠誠ゆえに付き従っていると聞いていたのだ。
「私たちは今よりもずっと、真っ当な仕事をご用意できます。どうでしょう? 私たちに協力していただけないでしょうか?」
リベラの真摯な提案を真剣に聞いていたレイナードは、天井を仰ぎ、深く考え込み始めた。
⋯
リベラとミュリアが席を外し、部屋にはウィンだけが残っていた。
「さっきの話は本当なのか?」
レイナードのぽつりとした質問に、ウィンは静かに「そうです」と答えた。
リベラのマスターである男が、大量の資源を保有するアヴァロンのトップであることは、レイナードも知っていた。
そして、彼らが求める人材として、軍隊としての組織力と技術を持つ自分たちがこれ以上なく適任であることも、十分に理解できた。
「少し⋯1人で考えさせてくれ⋯」
そう言われ、ウィンも静かに部屋を出て行った。
⋯
アヴァロン2への到着まであと1日と迫った頃、ようやく体調の戻ったレイナードが部屋から出てきた。
ラウンジに集まっていた3人に近づくと、しっかりと意を決した声で答えた。
「お前たちに協力しよう。だが、1つお願いがある」




