327.難解すぎる事情
一方、アヴァロンへと戻る宇宙船『スターブリンガーⅡ』の中で、ギルバートがロボットと会話を交わしていた。
「つまり、お前は未来から来たってのか?」
『うん』
ギルバートは、なかなか要領を得ないロボットとの会話を、旅の暇つぶしとして楽しんでいた。
「でも、俺が知るアヴァロンにはそんな技術はなかったぞ?」
ギルバートは疑いの目をロボットに向ける。
『天才先生が作った』
「天才先生って?」
『クリストのおっちゃん』
ギルバートが不在の間にクリストが目を覚まし、時空転移装置を実用レベルにまで完成させたのだとロボットは説明した。
だが、ギルバートはコールドスリープ状態で眠り続けていたクリストの姿しか知らない。
「それ、ホントの話かよ?」
クリストの能力を正確に把握していないギルバートは、ロボットの話を素直には信用できなかった。
「で、わざわざ未来から来た理由はカイトの誘拐を阻止するためだと?」
『うん』
「でも、失敗してるじゃねーか」
ギルバートはカラカラと笑い飛ばした。
痛いところを突かれたロボットは反論しようとしたが、すぐに元気をなくしてしまう。
『カイトは連れて行かれずに済んだ!⋯でも、痛い思いをさせちゃったけど⋯』
そのあまりにも人間味溢れる仕草や感情表現に、ギルバートは何か引っかかるものを感じた。
「おまえ、もしかして⋯アイリスか?」
ギルバートの顔を見つめたロボットは、静かに答えた。
『ちょっとちがう⋯けど、そう』
その回答を聞き、ギルバートは深く納得した。
機械の体でありながら、仕草や言葉の端々から溢れ出るものが、あまりにも人間味溢れるアイリスに似ていた。
だが、それと同時にギルバートの記憶がよみがえる。
自分自身がかつて、死の間際に受けた『ゴーストスキャン』という技術だ。
あれは本来、死を待つしかない人間に対して行われる、いわば『苦肉の策』とも言える危険な技術のはずだ。
なぜ、元気に生きているアイリスが、ゴーストスキャンを受けたのか?
ギルバートの表情が一転して真剣なものへと変わる。
「ゴーストスキャンは人体に悪影響を与える危険な技術だぞ。なんでわざわざそんな危険な真似をしたんだ?」
『天才先生に相談して⋯でも、生身はブジだよ』
命に関わる前にスキャンを中止し、足りない部分はAIで意識を補ったのだと、ロボットは一生懸命に説明した。
「なんでそんな危ない事をやったんだ?」
『生身で過去へ行くのが危険だから』
「だから、なんでだ?」
ギルバートにさらに重ねて問われたものの、それ以上の説明はできなかった。
『天才先生ができるって言ってくれたから。⋯どうしてもカイトを自分で助けたかったからがんばった。⋯でも、失敗しちゃったけど⋯』
そう言って、またしても落ち込んでしょぼくれるロボット。
その姿を見たギルバートは、ポンポンと優しく頭を撫でてやった。
⋯
「まぁ、それもこれもアヴァロンに着けば全部解決するんだろ?」
どこか軽く考えている様子のギルバート。
しかしロボットの方は、ギルバートと会話をした事で、自分が置かれている状況を客観視することができた。
アヴァロンに到着したとしても、頼みのリベラやクリストは、自分たちが過去へ飛んできた今の状況をまったく理解していないのだ。
どうやって自分がアイリスのコピーであるという事を、納得してもらうか?
さらに、どうやって『時空転移列車』を準備してもらうか?
どうやって過去へ旅立ったその日までに未来へ戻るか?
そのどれもが、果てしなくハードルの高い問題ばかりだった。
特に説明が下手すぎて、言葉で伝えられないことを思い出し、ロボットは頭を抱えてしまった。
「なんだ? 何か悩み事か?」
頭を抱え込むロボットを見かねて、ギルバートが声をかける。
「説明がむずかしい」
「時間はたっぷりある。練習だと思って俺に話してみろ」
そう言って、ギルバートはロボットの説明に耳を傾けた。




