325.戦場と救難信号
43章のあらすじ
登場人物:リベラ(船のAI、女性)、ミュリア(元ミュート、AI、女性)、ウィン(元バトラーの配下、女性)、ギルバート(30代、商人、男性)、ロボット(アイリスの意思を持つロボット)
歴史改変のため時空転移列車で過去へ渡ったリベラ、ミュリア、そして小型ロボットの3人。カイト誘拐の阻止と重症化した彼の保護を果たす一方、今後発生する、バトラーによるアヴァロン2の占拠とエドワード誘拐の危機を知る。カイトの治療は奇跡的に再会したギルバートに託し、リベラ、ミュリア、ウィンの3人はバトラーと交渉するため、セレノグラフィアから出航する。
宇宙船の中で、ミュリアは先ほどのギルバートの言葉を思い出していた。
今、起こっている事は、ミュリアにとっては500年以上前の出来事だ。
はるか昔の事で、さすがのアンドロイドであってもそう思い出せるものではない。
記憶の輪郭もどこかあいまいだった。
そういえば、いつだったか⋯。
バトラーがリベラの仲間を捕らえると言い、部下を率い出発した事があった。
しかし、戻ってきたのは小さな脱出艇に乗ったバトラーただ1人。
何があったのかも詳しくは語ってくれなかった事があった。
曖昧だった過去の記憶と、さっきギルバートの話が1つにつながった。
バトラーの拠点へと向かうルートの途中に、その戦闘宙域がある。
念のため、リベラはそこへ立ち寄って状況を確認する事にした。
⋯
宙域へ到着したものの、視界に広がる光景にウィンは拍子抜けしたような声を漏らした。
「⋯ホントにココで合ってる?」
ギルバートが語っていた激しい艦隊戦の跡地にしては思いのほかガレキが舞っていない事に違和感を感じた。
しかし、操縦席のリベラは核心をもって答えた。
「ええ、ここで間違いありません」
リベラは、そう言いながら前方に見える巨大な岩の塊を指差した。
ウィンとミュリアが、その塊をよく観察してみると、それは自然の隕石や小惑星などではなかった。
金属の質感が歪に癒着し、押し固められたような異様な造形をしていたのだ。
怪訝な顔をする2人に向かって、リベラが解説を加えた。
「あれは、ナノマシンが集積した宇宙船の残骸です。おそらく、ギルバートさんはナノマシンを実戦投入して戦ったのでしょう」
言葉を失う二人の前で、コンソールの警告音が不意に室内に響いた。
ミュリアが素早くパネルを操作し、表示されたデータを注視する。
「⋯近くで救難信号が出ているわ」
信号の発信源へと船を移動させていくと、そこには無数の小さな物体がただよっていた。
それは点滅する標識灯を明滅させている小型の脱出ポッドだった。
リベラがモニターに映し出された脱出ポッドをカウントすると、その数は30個あった。
⋯
暗黒の宇宙空間に浮遊する大量のポッド群を見つめながら、ミュリアは状況を分析した。
「おそらく⋯バトラー様の配下の者たちね」
見過ごすわけにはいかないと感じたミュリアは、リベラに向き直った。
「彼らを助けたいのだけど⋯いいかしら?」
リベラとしても、彼らを見捨てる理由も断る理由もないため、了承した。
現在の宇宙船には、これだけの人数を収容はできない。
そのため、船で牽引する形でバトラーの拠点まで連れて行く事にした。
船の後方からワイヤーを展開し脱出ポッドを繋ぎ止めて運ぶ事にした。
移動中、ミュリアは考え込んでいた。
かつてバトラーからこの件を聞いた記憶が全くなかったからだ。
なぜ、彼は自分の配下であったはずの彼らを助けず、放置したのだろう⋯。
一方、ウィンは牽引している脱出ポッドから乗組員の情報を取得し、データを確認していた。
その中には、バトラーがかつて宇宙艦隊総司令だった頃に部下だった者が数名含まれていた。
海賊となってもバトラーにつき従ってくれた数少ない面々であり、中には副司令官だった男まで存在していた。
それほどの忠臣たちを、なぜ放置していたのか⋯謎は深まるばかりだった。
⋯
そして脱出ポッドを牽引した宇宙船は、とうとうバトラーの拠点に到着した。




