324.窮地と幸運
ギルバートは、アヴァロンへの帰路の途中でミラが送った「カイトが誘拐されそうになった」という通信を受信した。
そのままアヴァロンへ帰ってもよかったが、何か自分にできる助けはないかと考え、セレノグラフィアへと引き返してきてくれたのだという。
今のリベラたちにとって、ギルバートのその選択は、まさに渡りに船だった。
「では、カイト君をアヴァロンへ連れて行っていただけませんか?」
リベラのその頼みをギルバートは快く引き受けてくれた。
すぐさま作業に取りかかり、リベラたちの宇宙船から、カイトのコールドスリープポッドは慎重に運び出され、スターブリンガーへ載せ替える。
「ん?このスターブリンガー…何か違いますね」
リベラは目ざとく、何かに気がついた。
「ああ、エイドスからセレノグラフィアへの行程の途中でバトラーに遭遇してな。返り討ちにしてやったが、代わりに船もボロボロにされてな。セレノグラフィアで買い直したんだ」
バトラーの名が急に出たためリベラの側にいたミュリアとウィンが反応した。
「それはいつのことですか?」
たしか、10日ほど前の話だとギルバートは説明した。
バトラーについてさらに質問されたが、その場に放置したため、その後の状況は分からないとギルバートは答えた。
今度はギルバートが尋ねた。
「所で、お前たちはこの後、どうするんだ?」
「まだ用事があり、そちらを片付けてからアヴァロンへ戻ります」
リベラは用事の詳細は伝えなかったが、ギルバートはそれ以上聞かなかった。
ポッドの載せ替え作業が進む中、ロボットが意を決したようにリベラのもとへ歩み寄り、自らの意思を口にした。
『わたし⋯カイトのそばに居たい⋯』
その切実な思いを受け止めたリベラは、ギルバートにロボットもアヴァロンへ連れて行くようお願いした。
リベラは、ロボットのボディを優しく触るフリをしながら、無線通信で語りかけた。
『先にアヴァロンへ戻るなら、『現在の私』に今の状況を説明してもらえますか?』
ロボットはリベラの言葉を受け止め、うなずいた。
『リベラが戻るまでに、未来へ帰る準備をしておく⋯だから、早く帰ってきて』
ロボットはそう返すと、名残惜しさを込めてリベラにぎゅっと抱きついた。
「お願いします」
リベラはロボットを優しくなでた。
⋯
「では、カイト君をおねがいします」
リベラはギルバートにカイトとロボットを託し、ミュリアとウィンを連れて宇宙船のタラップを登った。
「行きましょう!」
操縦席についたリベラのかけ声とともに、宇宙船はエンジンを始動させた。
静かに浮上した船体は、セレノグラフィアを出発した。
…
遠ざかるリベラたちの宇宙船を見送りながら、ギルバートは傍らに立つロボットの方を見た。
「お前、意識があるのか?」
『うん』
「そうか、…リベラといい、お前といい、なんだか問題を抱えているみたいだな。…まぁアヴァロンまでの行程は長い。よかったらお前の話を聞かせてくれ」
そう言って、ギルバートは手を伸ばし、ロボットの頭をポンポンと優しくなでた。




