321.打算と妥協
翌朝、リベラは出発前にミュリアとウィンを連れ、ドレッドノートの事務所を訪れていた。
重厚なデスクの奥から、ドレッドノートが視線を向ける。
「リベラ。今日は何の用だ?」
以前、顔合わせで連れてきたミュリアの顔を、ドレッドノートはかすかに覚えていた。
しかし、その隣に立つウィンとは初対面だった。
「彼女たちはバトラーさん側の方々です」
リベラの紹介を受けた瞬間、室内の空気がわずかに緊張を帯びた。
今回の誘拐事件を画策した首謀者の仲間と紹介されたため、これは仕方がなかった。
⋯
ドレッドノートがセレノグラフィアに乗り込んでくる前、この宙域はバトラーが、裏の支配者として君臨していた。
その後、前任者が佐々木に楯突いたことで、地上の裏の顔にドレッドノートが就くこととなった。
ドレッドノートにとって宇宙空間は自分の領分外だったため、直接の関わりはなかったが、当然バトラーの事は知っていた。
そして前任者同様、バトラーも佐々木に敵対した結果、宇宙艦隊総司令官の座から引きずり降ろされ、現在は宇宙海賊に身をやつしていることも把握していた。
ドレッドノートの領分である、地上において好き勝手な真似をしたバトラーたちに対して、落とし前をつけさせる必要があると考えていた。
そんな空気を察し、リベラはひと言付け加えた。
「以前も説明しましたが、私たちはバトラーさんをアヴァロンの仲間に引き入れる予定です」
「バトラーさんは勢力拡大を焦るあまり、素行の悪い者たちを多数引き入れてしまい、統率に深刻な問題を抱えています。特に今回カイト様を誘拐しようとした面々は、独断で強硬手段に出たため、そちらのウィンさんを除いて全員を逮捕しました。今後も同様に、配下の素行の悪い者たちについては、逮捕していく予定です」
裏街道を長年歩んできたドレッドノートにとって、リベラの説明する「切り捨て」は好ましくはなかった。
しかし、別の計算が浮かんでいた。
「⋯なら、そのハジき出された連中をウチがスカウトするのは問題ないな?」
念を押すように尋ねるドレッドノートに、リベラはええとうなずいた。
ドレッドノートとしては、勢力を拡大するため配下を増やしている最中であり、今回の話はまさに渡りに船だった。
何よりドレッドノートには、素行の悪い者たちを矯正・再教育する厳格な「先生」を抱えており、人材の育成体制はすでに確立している。
ならば、一旦は予定通り政府に拘束させ、釈放された者から順次自分たちの配下に組み込んでいく方が、非常に効率的と考えた。
リベラとしては、今回の拘束自体の協力をドレッドノートに依頼したかったのだが、ドレッドノートの利害や今後の思惑を考慮すると、拘束の協力を得ることは難しいと判断した。
その上で、リベラはひとつの提案を出した。
「今回の騒動に対する手打ち金につきましては、我々がお支払いすることを約束します」
「まあ、いいだろう」
⋯
「地上での身柄拘束は難しそうですね。宇宙空間で一網打尽に拘束する方法を考えるとしましょう」
3人は次なる作戦を見据え、静かに思考を巡らせはじめた。




