318.新たな覚悟
張り詰めた空気が幾分か和らいだところで、ミュリアが静かに口を開いた。
「⋯バトラー様を、今の宙賊業から足を洗わせようと思うの」
その言葉を聞き、リベラは深くうなずいた。
「それが賢明だと思いますね。宙賊は我々の宇宙ステーション事業や、資源販売事業と真っ向から衝突します。宙賊を続ければ、潰し合うことになるでしょう」
ウィンもまた、ミュリアの意見に同意した。
「私も、それがいいと思うわ。バトラー様が宙賊業を始めてから、周囲に集まりだした仲間の素行の悪さが目立っていたのよ⋯」
ウィンは、容赦なく銃を放っていた大男や、ミュリアの『未来の記憶』の中で、自分を破壊した男の顔を思い出していた。
彼らにこれ以上関与すれば、遠からずバトラーの身の破滅は免れない。
「でも、それなら何か、バトラー様にふさわしい役目を差し上げられない?」
ミュリアの投げかけた懸念に、リベラは少し思考を巡らせてから答えた。
「バトラーさんは、かつて宇宙艦隊の総司令官まで上り詰めた方ですよね。多くの人間を統率し、組織を束ねる能力は非常に高いのではないでしょうか?」
その意見には、ウィンとミュリアが揃って強く同意した。
「では、現在エイドスにて建造中の宇宙ステーション内に、新たな『星間警備会社』を立ち上げ、運営しようと考えています。そこのトップにバトラーさんを据える、というのはどうでしょうか?」
ミュリアの瞳に、微かな希望の光が宿る。
「たしかに⋯そういった組織を率いる仕事は、天職かもしれないわ。でも、どうすればそんな地位に、今のバトラー様がつけるの?」
「実績を作るというのはどうでしょう? その地位に就くべき正当な能力と大義があるのだという⋯明確な実績を」
リベラの含みのある発言に、ウィンとミュリアは顔を見合わせ考え出した。
⋯
翌朝、リベラはミラに対して、アヴァロン帰還のための新たな宇宙船の調達を依頼した。
その際、ミラから「今回は一体どうやってこのセレノグラフィアまで来たのか」という当然の疑問を投げかけられたが、リベラは核心を避け、煙に巻いた。
宇宙船の調達と、カイトを安全に搬送するためのコールドスリープポッドの医療調整には、それから丸3日の時間を要した。
準備が完全に整った翌日、カイトを眠らせたポッドが宇宙船の格納庫へと運び込まれた。
すべての出発準備が整い、リベラたちは明日にセレノグラフィアを立ち、アヴァロンへと帰還することを決定した。
その出発を間近に控えた船内で、ミュリアが静かに告げた。
「私は、アヴァロンには戻らないわ。ウィンと共に行動する事にしたの」
その言葉は、ミュリアがかつての『ミュート』としての自分を捨て、この世界で『別人』として生き、その存在を完全に固定する覚悟を決めたということを意味していた。




