317.目的と手段
リベラから連絡を受けたミラの迅速な手回しにより、カイトの新たな受け入れ先となる病院は、驚くほど速やかに決定した。
今度の病院は、セレノグラフィアの高官や要人が極秘裏に利用する、最高級のセキュリティを誇る超近代的な医療施設だった。
ココならば、バトラーの息がかかった暴漢たちが再び襲撃してくる心配は万に一つもない。
リベラはすぐさまロボットに連絡を入れ、ミラと共にその病院へと呼び寄せた。
⋯
入室してきたミラとロボットを迎え、リベラは静かに現在の状況を説明した。
「カイト君の身の安全は確保できましたが⋯残念ながら、誘拐を完全に阻止できなかった代償は小さくありません。一連の騒動により、彼の病状は悪化しています」
リベラの言葉に、ロボットは小さく拳を握りしめた。
「彼の命をつなぐには、ここで治療を続けるより、エマさんやサラさんが待つアヴァロンへ連れ帰る事がもっとも確実です」
これ以上、病状の悪化を指をくわえて見ているわけにはいかない。
その時、リベラの端末にミュリアからの通信が入った。
ウィンとの接触に成功し、身柄を確保したという報告だった。
リベラは一瞬だけ目を細め、一同に向き直る。
「今後の具体的な方針について、一旦、みなで拠点で相談をしましょう」
⋯
拠点の扉を開けた瞬間、ロボットの身体が固まった。
そこに居たのは、他でもないウィンだった。
『なんで、お前がここにいる!?』
ロボットから、怒りと警戒の混じった鋭い声が発せられた。
カイトを誘拐した張本人であり、その顔を忘れるはずがなかった。
しかし、リベラが静かに割って入る。
「落ち着いてください。彼女はすでに我々の味方になることを了承しました。今後、今回のような不幸な問題が起こることはありません」
『なんでそんなことが言い切れるの!?』
今度はロボットがリベラに詰め寄った。
いくらリベラの言葉とはいえ、さっきまで敵だった存在を無条件に信用できるはずがない。
「我々との幸せな未来に、ウィンさんも協力をしてくれるという約束をいただきました」
『でも⋯!』
まだ言い足りないとばかりに食い下がろうとするロボットの言葉を、リベラは片手を緩やかに上げて制した。
「私の目的は、マスターである佐々木様の幸せです。⋯それは、わかりますね?」
急に話がすり替えられた事に戸惑いながらも、ロボットはリベラの放つ圧倒的な説得力に圧され、『う、うん⋯』としぶしぶ納得の声を漏らした。
「対して、ウィンさんの真の目的は何だと思いますか?」
『⋯誘拐?』
「誘拐はあくまで手段に過ぎません。ウィンさんの目的もまた、彼女のマスターであるバトラーさんの幸せなのです。我々アンドロイドの目的は、決して争うことではありません」
『うん⋯』
ロボットの声のトーンが、少しだけ安定する。
「争いを続けることで、お互いの本来の目的そのものが失われてしまう。それを理解した今、私たちは別の手段で互いの目的を果たすことにしたのです。それが『仲間になる』ということ。このまま不毛な争いを続ければ、近い将来、カイト君の命も失われる。それを理解して、この場はどうか感情を押さえてください」
リベラにそう諭され、ロボットは向けた視線を落とし、不承不承ながらもその場を収めることに同意した。




