315.小さな鉄腕
宇宙港の外、薄暗い貨物搬入エリアの片隅。
仲間の一部が逃走用の車を調達しに向かっている間、ウィンと大男は、カイトが詰め込まれた大型トランクの前で焦りながら待機していた。
全船欠航という最悪のイレギュラーに、彼らの苛立ちは頂点に達していた。
そこへ、迷いのない足取りで角を曲がってきた影があった。
それはあの病室にいたロボットだった。
男たちの姿を捉えたロボットは、一直線に走ってくる。
『見つけた!』
「くそっ! あの時のロボットか!」
大男は激しく舌打ちをすると、コートの裏から大型の銃を素早く取り出した。
男は狙いを定め、引き金を絞った。
ドン、と空気を爆裂させるような重低音が響く。
発射時の凄まじい反動により、大男の巨体が一瞬後ろに下がるのと同時に、強烈な破壊力を秘めた実体弾が一直線に放たれた。
しかし、ロボットはその軌道を完全に見切り、紙一重で回避した。
代わりに、後方に停まっていた無人の大型作業車へ着弾する。
鼓膜を揺らす金属衝突音が響き、作業車の分厚いフロントガラスが一瞬で粉々に砕け散った。
弾丸はそのまま運転席を容赦なくねじ伏せるように貫通し、車体のフレームを歪ませて背後の壁へと突き抜けた。
その凄まじい破壊の規模を目にした瞬間、ロボットは理解した。
病院で自分を後ろから撃ったのはコイツだと。
目の前の大男が凶行の主犯であると確信する。
ロボットは即座に戦闘のギアをトップへと跳ね上げ、男を目がけ猛烈な速度で突進しはじめた。
必殺の一撃を完璧にかわされた大男の顔が、驚愕と焦りに引きつる。
まだ数メートルの距離があるものの、恐ろしい速度で迫りくる小さな影に向けて、狂暴な破壊力を宿した弾丸が、続けざまに4発発射された。
だが、弾道をミリ秒単位で見切ったロボットの速度が圧倒的に上回っていた。
ロボットは首や上体をほんの少し傾げ、最小限の身のこなしで全ての弾丸を紙一重でかわしながら、確実にその距離を縮めていく。
大男が放ったすべての弾丸は、ロボットの背後の地面やコンクリートの支柱を空しく粉砕していくだけだった。
「なぜ、なぜ当たらないッ!!」
大男が絶望の悲鳴を上げ、完全に弾切れとなった瞬間、一気に懐へと踏み込んだロボットが、男のぶ厚い腕を掴んだ。
小さな体からは想像もつかない剛腕で、そのまま背後側へ捻り上げる。
大男の絶急が響く中、すぐ背後からけたたましいサイレンの音が乱入してきた。
「動くな! 銃を手放すんだ!!」
リベラが道中で緊急要請していた空港の警備隊が、一斉に銃を構え、包囲網を敷いていた。
車をぶち抜き壁を粉砕するほどの弾丸をすべて回避され、小さなロボットに完全に制圧された大男の姿を見て、残された男たちは作戦の失敗を悟った。
彼らは大人しく銃を投げ捨てると、頭の後ろに手を組み、その場に転がって完全な降伏の意思を示した。
リベラたちが現場に追いついた時、騒動はすでに終息を迎えていた。
男たちは次々と手錠をかけられ、護送車へと連行されていく。
その後、トランクは開けられ、中に詰め込まれていたカイトは、ロボットが手配した救急車へと運び込まれた。
リベラは関係者として、救急車に乗り込んだ。
ハッチが閉まる直前、開いた扉からロボットを見つめ、声を張り上げた。
「後で連絡します!」
バタンと重いハッチが閉まり、救急車は赤色灯を激しく回転させながら、夜の街を走り去っていった。
その場に残されたのは、ロボットとミュリアの2人だけだった。
2人は複雑な面持ちで、連れて行かれる男たちを静かに確認していた。
だが、その中には、先頭で指示していたはずの「ウィン」の姿はなかった。




