314.直前のインターセプト
ドローンタクシーに飛び乗るや否や、ロボットは行き先を最短ルートで宇宙港に指定した。
機体は即座に浮上し、夜の街を滑るように加速していく。
静まり返ったタクシーの車内で、ミュリアがぽつりと疑問を投げかけた。
「どうして決行は3日後だったはずなのに、今日実行されたのかしら?」
前もって得ていた情報との食い違いに、彼女は眉をひそめている。
その問いに、リベラが沈痛な面持ちで答えた。
「おそらく、我々が会話したアヴァロン商事か、ドレッドノートさんの事務所から情報が漏れたのでしょう。彼らはかなり前から周到に準備をしていて、決行のタイミングはいつでも良かったのかもしれません。⋯やはり、我々がココに来たせいで、未来が変わってしまったのでしょうね」
歴史に介入してしまった代償の重さに、リベラは拳を握りしめる。
そして、焦燥感を滲ませながら前行を見据えた。
「このままでは、宇宙港についたとしても敵の出発には間に合わないかもしれません。⋯何か仕掛けられませんか?」
リベラが藁にもすがる思いでロボットに相談する。
ロボットは少し考えるそぶりを見せた後、『⋯できるかも』と短く答えた。
その直後、タクシー内のモニターで流れていた退屈なCMの画面下部に、緊急ニュースの字幕が滑り込んできた。
『【緊急速報】宇宙港周辺における急激な磁気嵐の発生の為、安全が確保されるまで宇宙船は全船が欠航中となっております。ご旅行の際はご注意下さい⋯』
想定外の字幕にリベラとミュリアが目を見張る中、ロボットは誇らしげに胸を張った。
ドローンタクシーが宇宙港に到着し、ロビーの中に駆け込むと、そこは異様な熱気に包まれていた。
突然の全便欠航により、足止めを食らった人々でごった返している。出国ゲート前では、大勢の旅客が職員に詰め寄り、怒号が飛び交っていた。
ごった返すロビーを見回しながら、リベラが暗号回線を通じて問いかける。
「どこにいるの⋯?」
ふたたびカメラのスキャンを開始したロボットは、リアルタイムで解析している映像を、リベラとミュリアへ共有する。
数分前の映像が映し出される。
画面に映し出されたのは、逃走に使用されたあのバンから降りてくる一団だった。
先頭を行く女性と、数人の男たち。
2人の男で、子供が隠せるほどの、不自然に大きなトランクを引きずっている。
「おそらく、あの中身はカイト君でしょうね⋯」
リベラが息を呑む。
その時、先頭を歩く女性の顔がアップで映し出された。
その容姿を見たミュリアが、ハッと息を止める。
「ウィン⋯」
彼女の口から、絞り出すように小さな声が漏れた。
ロボットは構わず、それぞれの顔データと空港内の無数のカメラ映像を高速で照合しだした。
画面上に表示された宇宙港内の待機場所が、一つ、また一つとチェック済みの青色に変わっていく。
そして、待機場所の1つが、警告を示す赤色に点滅した。
室内上部のカメラ映像を拡大すると、先程のウィンと男たちが、出国ゲート前で苛立ちながら運行再開を待っている姿がはっきりと映る。
しかし次の瞬間、先頭のウィンが、まるで視線に気づいたかのようにカメラの方を真っ直ぐに見つめ返した。
画面越しに目が合った気がした、そしてロボットが呟く。
『見つかった⋯』
ウィンは即座に危機を察知していた。
後ろに座る男の1人が不審そうに尋ねると、ウィンは短く言った。
「逃げないと!」
男たちに、トランクを持たせ、別の出口から外へ出ようと歩き出した。
出国直前で引き返そうとする不審な動きに、近くの職員が話しかけるが、それを無視して早足で去っていく。
『先に行く!』
ロボットはリベラたちにそう告げると、凄まじいスピードで外へ出ようとする。
「先生に言われた事を忘れないで下さい!」
ふたたび先行しようとするロボットにリベラは声を張上げ伝えた。
一瞬後ろを向いて親指を立て、ロボットは走り去った。




