312.瓦礫の下のロボット
ミラの先導で、街を統べる裏の顔役ドレッドノートのオフィスへと向かった。
重厚な扉を開けると、そこには偶然にも「先生」がいた。
「おや、リベラさん。お久しぶりですね」
穏やかに微笑む先生。
リベラは一刻の猶予もないことを告げ、ドレッドノートに宙賊の襲撃予測を伝えて協力を要請する。
「そうか。オレの街でそんな騒ぎは見過ごせんな」
自分と同じような出自の孤児を日頃から気にかけているドレッドノートは2つ返事で了承した。
そばで聞いていた先生が、さっそく同行を願い出てくれた。
リベラ、ミュリア、ミラ、そして先生の4人は再び社用車に乗り込み、カイトのいる総合病院へと向かうことにした。
激しく流れる車窓の景色を眺めながら、ミラが尋ねる。
「リベラさん、その襲撃を企んでいる敵について、わかっていることを教えてもらえますか?」
「主謀者はバトラー。以前、ボレアス・ダイナミクスの私設宇宙軍で総司令官をしていた男の配下の者たちです。」
その名を聞いた瞬間、隣に座るミュリアの顔が苦々しく歪んだ。
「今回の指揮はその配下でウィンという女性型のアンドロイドです。彼女だけは無傷で確保してください。お願いします」
リベラもミュリアの微細な感情を察し、あえて言葉を付け加えた。
「今後の大局的な計画において、私たちはバトラーをアヴァロンの仲間に引き入れる予定です。ですから今回の防衛戦では、できるだけ禍根が残らないようにしていただきたいのです。死人は出さないようにお願いいたします」
先生は顎に手を当て、深く考え込むような仕草を見せたが、静かにうなずいた。
「承知しました。手加減を心がけましょう」
だが、情報交換を重ねていた車内は、目的地が近づくにつれて一変する。
「あれは何でしょう?」
ミラがフロントガラスの先を指さした。
美しい街並みの向こうから、不穏な黒煙が立ち上っているのが見えた。
車が到着した総合病院は、すでに地獄絵図と化していた。
火元はやはり病院で、けたたましいサイレンが鳴り響き、消防車や警察の車両が入り乱れ、避難する人々で現場はパニックに陥っていた。
「私についてきてください!」
病院オーナーであるミラが毅然とした態度で警察の規制線を突破し、リベラたちを先導して館内へと飛び込んだ。
ミラは、カイトが入院しているはずの最奥の特別室へと急ぐ。
だが、その部屋の前にたどり着いた一同は息を呑んだ。
扉は爆破され、室内は激しい爆発でもあったかのように瓦礫が散乱していた。
誘拐部隊の強襲は、当初の予定よりも遥かに早く実行されていたのだ。
ガラガラ、と不意に部屋の隅で瓦礫の一部が崩れ落ちた。
崩れたコンクリートの隙間から、這い出てくる小さな影があった。
それはアイリスのロボットだった。
ボディのあちこちがキズ付き、汚れてはいたが、動作には問題はなさそうだった。
『カイトが…さらわれた…』
さっきのワザとらしい機械音声とは違う。
それは、アイリス本人が絶望に喉を詰まらせたかのような声だった。




