311.到着直後の急展開
『5、4、3、2、1……発進します!』
ガブリエラの声が途切れた瞬間、眼前の風景が文字通り一瞬で変貌した。
現れたのは、暗く静まり返ったがらんどうの巨大倉庫。
だが、転送された先には線路など存在しない。
レールを失った時空転移列車は、時速数百キロの慣性を維持したまま、床の上を激しく火花を散らしながら滑走した。
鼓膜を破らんばかりの急ブレーキ音が響くが、車輪は虚しく空転する。
制御を失った車体は、そのまま凄まじい衝撃とともに倉庫の奥の防壁へと突っ込んだ。
金属がひしゃげる轟音。
列車の前頭部は容赦なく大破し、白煙が立ち上る。
「大丈夫ですか?」
停止後、リベラは即座にシートベルトを外すと、隣の席のミュリアへ向き直った。
新型の義体のおかげか、ミュリアに問題はなさそうだった。
アイリスの小型ロボットも傷1つなさそうだった。
ひしゃげたハッチをこじ開け、列車の外へ出たリベラは、半壊した倉庫の壁と無残な車両を見上げ、ぽつりと言った。
「この修理費は、かなり高く付きそうですね⋯」
しかし、冗談を言いあう余裕はなかった。
時間は限られている。
「まずはアヴァロン商事のミラ社長に会いに行きましょう。彼女の権限を借りてドレッドノートさんに繋いでもらい、カイトさんの警備プランを相談しましょう」
リベラの説明にミュリアもうなずく。
倉庫を出た3人は、通りで素早くタクシーを拾い、滑り込むように乗り込んだ。
⋯
セレノグラフィアの一等地にあるアヴァロン商事本社ビル。
「社長。リベラさんがお越しです」
受付のAIロボットから予想外の報告を受け、オフィスにいたミラは驚いた。
これまで、アヴァロンメンバーのセレノグラフィア来訪時は事前に連絡をもらっていたのに、今回は何も聞かされていない。
不審に思いつつ入口へ向かうとリベラと知らない女性が立っていた。
「リベラさん!? どうして急に?」
「少し、緊急でご相談したいことがありまして」
室内に通されたリベラは、挨拶もそこそこに、これから数日以内に発生する「カイト誘拐計画」を簡潔に説明した。
「そんな…カイト君が!? わかりました、すぐにドレッドノートさんに、直接相談に行きましょう!」
ミラは事態の深刻さを察し、即座にデスクから立ち上がった。
そこでふと、リベラの背後に控える見慣れない女性に目を留める。
「ところで…そちらの方は?」
「最近我々の仲間になりました、ミュリアさんです」
リベラが紹介すると、ミュリアは小さく頭を下げた。
詳しく詮索している時間はない。
ミラはすぐに駐車場へ移動し、アヴァロン商事の社用車に乗り込んだ。
乗り込もうとしたその時、アイリスのロボットが、その場に立ち止まった。
『…サキニ、カイトノトコロニ、イッテオク…』
ノイズ混じりの電子音声。
だが、明確な意思を持った言葉だった。
ロボットはそれだけ言い残すと、驚く一同を置いて、カイトが療養している病院の方向へ向かって猛然と走り去っていった。
「あのロボット。しゃべれたのね…」
社内でロボットを見送るミュリアがつぶやく。
「たぶん、何かもっと別の秘密があると思いますよ」
リベラはロボットの背中を見つめながら、静かに答えた。




