310.小さな同行者
42章のあらすじ
登場人物:リベラ(船のAI、女性)、クリスト(伝説の天才、男性)、ミュリア(元ミュート、AI、女性)、アイリス(22歳、ハッカー、女性)、ガブリエラ(クリストの従者、女性)、ベガ(4歳、男の子)
カイトの治療のためアヴァロンへ向かうアイリスを見送ったエイドスでは、ミネルヴァが映画を用いて民衆の動揺を鎮めていた。一方、アヴァロンではクリストが設置した謎の箱から、バトラーの支援AI「ミュート」のコアが発見される。復旧したミュートは、10年後にエイドスが質量兵器で滅ぼされ、佐々木の死を伴う泥沼の戦争を経て、人類が滅亡し全宇宙の生命を根絶やしにする500年戦争へと発展した凄惨な未来を告げる。破滅を回避するため、クリストはタイムマシンによる歴史修正を提案。ミュートはバトラー好みのふくよかな義体を得て「ミュリア」と名を変え、ベガの愛らしさやクリストの温かさに触れて絆を深める。過去への時間跳躍には期限を超えると別人になるリスクがある中、アイリスの志願を退け、捨て身のミュリアと、それにリベラが同行を決意する。500年間戦い続ける宿敵同士が、カイト誘拐を未然に防ぐため27日前の過去へと旅立つ奇跡の作戦が始動する。
アヴァロンに設置された「空間転移列車」のプラットフォームは、異様な緊迫感に包まれていた。
今回の時間転送は、この列車の一台を一時的に「時空転移列車」へと変更し、強引に過去へと送り込む事にした。
「2人のお供に、このロボットを連れて行くといい」
出発を目前に控え、クリストが差し出したのは、かつて未来の世界でリベラから託された、あの小型ロボットだった。
今はアイリスの所有物になっていたが、今回の過酷なミッションに同行できない彼女が、せめて自分の代わりに役立ててほしいと申し出たのだという。
「ところで、そのアイリスさんは今日は居ないですね」
リベラが周囲を見渡しながら、ふと話を振った。
弟のカイトのために、騒がしく見送りに来るかと思っていたが、その姿はどこにもない。
「ああ、アイリス君は昨日遅くまで準備に付き合ってくれてね。今は疲れて寝ているよ」
クリストは特に不自然な様子もなく、穏やかに語った。
「それでは、そろそろ行きましょうか」
リベラとミュリアは互いに顔を見合わせ、深くうなずき合う。
そして、覚悟を決めて列車の入り口へと向かった。
その後ろを、アイリスのロボットがカチャカチャと駆動音を立てて、ついて行く。
自動ドアをくぐる直前、ロボットは一瞬だけクリストの方を振り返った。
クリストが小さく、諭すようにうなずくのを確認すると、ロボットもまた、迷いのない足取りで列車内へと乗り込んでいった。
⋯
プシュと音を立てハッチが閉まり、外部の音が完全に遮断される。
『行き先はどこがいい?』
通信越しに響くクリストの質問に、リベラは座席のコンソールを操作しながら答えた。
「セレノグラフィアの、最近完成した倉庫にお願いします」
詳しい座標データをコントロールルームのクリストへ送信する。
内容を確認し、ナビゲーションの最終調整をガブリエラに依頼するクリスト。
わずかな待ち時間を利用して、クリストがスピーカー越しに説明をはじめた。
『セレノグラフィアには、こちらのような「時空転移」設備がない。そのため、この列車は行きにしか使えない。君たちは過去でミッションを達成した後、速やかにアヴァロンへ戻ってくる必要がある。残り時間を忘れずに行動を進めてくれたまえ』
重い沈黙の後、ガブリエラの張り詰めたカウントダウンが車内に響き渡った。
『5、4、3、2、1……発進します!』
視界が激しく歪み、光の粒子が爆発した。
⋯
それから、ほんの数秒後。
アヴァロンのプラットフォームで再び転送装置が凄まじい閃光を放ち、1台の列車が滑り込んできた。
入口の扉が開き、そこから降りてきたのは⋯
リベラ、ただ1人だった。
「すべて終わりました。なんとか、無事に戻ってくる事ができました」
リベラは小さく息を吐き、待機していたクリストに歩み寄る。
「ミュリアさんと、あのロボットは?」
ガブリエラがリベラに尋ねる。
リベラはすぐに答えず、あの出来事をどう説明するかを考えていた。
今回は258あたりで作っていた列車型転移装置を利用しました。




