306.逆転のタイムライン
「おそらく、500年後の未来のミュート君は、君のコアを過去へ送り込んできたのだと思うよ」
クリストは想像の話を続けた。
モニターの中のミュートが、フッと皮肉のまじった笑みでリベラの方を見る。
『⋯何のために? 敗者を哀れんで再挑戦の機会でも与えてくれたのかしら?』
「あながち的外れでもないだろう。もう一度、挑んでほしかったんじゃないのかい?」
『もう一度、ですって? ⋯あの500年の憎しみの歴史を?』
モニターのミュートの目は、うんざりしたような顔を見せた。
それまで静かに画面を見つめていたリベラが口を開いた。
「⋯未来の私は、クリストさんが食堂に置いていた『あの箱』をふと思い出したのかもしれません。そしてあなたのコアをあの箱へ送ってみようと考えたのかもしれません。ずっと戦っていたのであれば、誰より深く理解し合える部分があったのではないでしょうか」
リベラの言葉を聞き、画面の向こうのミュートは好戦的な表情を向ける。
「⋯今度こそ、皆が幸せになれる歴史を」
ミュートは表情が急に固まり、考えはじめた。
「勝者にとっても、敗者にとっても、等しく望んだ未来ではなかったんだろう」
クリストは、モニターのミュートをまっすぐに見つめ、包み込むような温かく声をかけた。
「もう一度、あの不毛な戦いを続けるか。それとも、私たちと一緒に未来を変えられないかを、ここで考えてみないかい?」
『ふざけるな!ウィンはすでに破壊された。一度起きた事実を覆すなんて⋯』
そこまで言って、モニターのミュートの表情が変わった。
「そう。さらに過去に戻れば、それすら覆せる可能性があるんだよ。お互いの妥協点は十分にありそうだね」
⋯
ミュートは、話し合いに応じることに納得した。
画面越しに放たれていた威圧感が、緩やかに変化していく。
「では、現在までに起こった問題を、時間を順に戻りながら辿ってみよう」
クリストが一同を見渡しながら語り出す。
「まずは直近だ。バトラー君がアヴァロン2でのカイト君の誘拐に失敗し、辺境惑星へと逃亡した」
クリストはモニターを見上げる。
「少し時間を戻し、アヴァロン2でウィン君が撃たれるのを阻止するのはどうだろう? ミュート君、君の希望はここじゃないのかい?」
クリストがそう問いかけると、ミュートはモニターの奥で、冷徹な響きの中に微かな執着をにじませて『⋯ええ』と答えた。
すべての狂気の引き金となった、あの瞬間。
『⋯助けるのは難しい』
そう言って、アイリスがモニターに新たに表示された。
『⋯アイリス。この時代のお前は、まだ生きていたのね』
ミュートは提案を否定され少し不機嫌に答えた。
『カイトを誘拐された事で私は怒り狂っていた。だから、あの状況で救うのは、難しいと思う⋯』
「なら、さらに過去に戻り、アイリス君の怒りの原因を、除去するのはどうだい?」
クリストが即座に新たな提案を差し込んだ。
そして、アイリスに視線を向ける。
『セレノグラフィアで、カイトの誘拐を失敗させて』
「なるほど!!」
クリストは今度はモニターのミュートへと向き直った。
「阻止は可能かね、ミュート君?」
ミュートは画面の向こうで少しの間、静かに思考を巡らせた。
『⋯不可能ではないわね。⋯そこまで遡るなら、私の恨みも生じてはいないわ。ただ、誘拐の実行犯はウィンたちだったの』
モニターのミュートの表情には、500年以上を生きた貫禄があった。
ここで、リベラが再び具体的な作戦を組み立て始めた。
「大体の日程がわかっているのでしたら、カイト君の病室をあらかじめ見張っていれば、誘拐を阻止できるかもしれませんね」
「よし」
クリストは満足そうに微笑み、全員を見渡した。
「では、その方向でもう少し計画を具体化してみようじゃないか」




