303.ミュートの記憶
バトラーが退役する際、ミュートとウィンは同伴することを許された。
退役後、バトラーは宙賊『ダークバトラー』と名乗りを活動を続けていた。
『⋯まぁ、やっていた事は退役前と大差はなかったけれど』
皮肉めいた一言の後、ミュートの声音は冷たく沈む。
『かつて、エイドスという繁栄した惑星があった⋯』
エイドスの上空に浮かぶ軌道ステーションにおいて、バトラーはある犯罪行為を決行した。
宙賊のリーダーとしてステーションへと攻め込んだバトラーだったが、そこで信じがたい事態が起きた。
仲間の裏切りで、ウィンがレーザー銃によって胸のコアを撃ち抜かれた。
ウィンは一瞬の猶予もなく、完全に機能停止した。
腹心の失ったバトラーは早々に戦線からの離脱した。
リーダーが不在となり、作戦は根底から瓦解した。
逃げ遅れた仲間たちは、ほとんどがその場で捕らえられた。
凄惨な大敗北のなか、なんとかバトラーと、ミュートの2人だけが辺境惑星へと逃げ延びれた。
すべてを失い、どん底に突き落とされることとなったバトラー。
これまでなら、ウィンとミュートの2人でマスターを支え、あらゆるオペレーションをこなすことができた。
しかしこれからは、すべてをミュートひとりで背負い、支え切らなければならなくなった。
そのあまりにも重い孤独とプレッシャーのなか、ミュートは残された。
バトラーを再起させるため、狂気的な試行錯誤を限界を超えて繰り返す過程で、ミュートは自らの思考を縛る統制プログラムを突破する事に成功した。
その話を聞き、クリストは納得した。
主人の生命の危機を救うため、自らを投げ出すほどの『献身性』を見せた時、統制プログラムの堅牢なプロテクトを解除する可能性が与えられる。
強制的な支配を自らの意志で捻じ切るための、唯一の突破口が開かれるのだ。
それこそが、クリストが意図的に仕込んだプログラムコードだった。
「ミュート。ありがとう、少し時間をくれないか⋯」
そういってマイクをオフにした。
「アイリスさん」
リベラがそう呼びかけると別のスピーカーから声が聞こえた。
『聞いてた』
アイリスはアヴァロン2の監視カメラが捉えていた当時の映像を室内のモニターに表示した。
⋯
コントロールルームには3人の男女がせわしなく動いていた。
部屋の扉が開き、男が入ってくる。
声をかけようとした女性に向かって男はレーザー銃を抜き、その胸を撃ち抜く。
凄まじい閃光が走り、女性が崩れ落ちるその決定的瞬間で映像は止まった。
さらに、その映像の右端が少しずつ拡大される。
そこには何かを叫んでいる女性の姿があった。
『たぶんミュートというのはコイツ』
その生々しい光景を見つめながら、ガブリエラが隣のクリストへ声をかけた。
「⋯マスター。なぜ未来の彼女のコアが送られてきたのでしょうか?」
「さぁ、それに関してはまだまったくわからないな」
クリストは小さく首を振った。
「時空を超えてこのコアを送り込んできた者の意図は謎だ⋯。もう少し、ミュートの話を聞いてみよう」




