301.メッセージボックス
※264話の伏線の回収になります。
アヴァロンの静かな工房の一角で、クリストは何かを熱心に組み立てていた。
「マスター。それは一体何ですか?」
傍らで見守っていたガブリエラが、不思議そうに首を傾げて尋ねた。
作業台の上に置かれているのは、デザイン性も何もない、ただの金属製の四角い箱だったからだ。
「ん? これかい? これは『箱』だよ」
クリストは作業を続けながら、視線すら上げずに事も無げに言った。
「箱ですか?その箱にはどんな機能があるのですか?」
ガブリエラがさらに質問すると、クリストは笑みを浮かべた。
「まぁ、そのうち分かるよ」
そう言い残すと、完成したばかりの箱を、食堂の端へと設置した。
⋯
それから数日後。
食堂を通りかかったリベラは、以前クリストが設置していった箱の前でふと足を止めた。
箱の上部に取り付けられた小さなライトが、光っている事に気がついたのだ。
ちょうど、自動ドアが開き、クリストとガブリエラが食堂に入ってきた。
リベラは、クリストに箱を指差しながら問いかけた。
「クリストさん。この箱の明かりがついているのですが、アレはどんな意味があるのですか?」
「中に何かが入っていると明かりがつく仕組みなんだよ。その意味はね…実は、私にも分からないんだ」
「「えっ…?」」
リベラとガブリエラは想像していない回答に声を出してしまった。
箱を設置したクリストが、「何の意味があるのか理解していない」というはどういうことなのだろう。
リベラとガブリエラはクリストが箱を開けるのを、後ろで見守ることにした。
カチャリ、と静かな金属音がして扉が開く。
クリストの手によって箱から取り出されたのは、表面にヒビの入った、黒い玉だった。
リベラが答える。
「コレは…コアですね」
「ああ、コアだな…。しかし、これは誰なんだろう?」
首を傾げるクリストは、ふと思いついたように「一度、隔離環境で動かしてみるか…?」などと言い出した。
「待ってください、クリストさん!」
予期せぬトラブルを警戒したリベラが、慌ててクリストを呼び止める。
「すみません。私は今、何が起こっているのか、まるで分かっていません。もう少し説明をいただけないでしょうか?」
リベラがとうとう一番聞きたかった事を聞いた。
「マスター⋯実は私もずっと疑問に思っていました。すみませんが、私も説明を聞きたいです」
ガブリエラもまた、真剣な表情で一歩前に出た。
ふたりから視線を浴び、クリストはフッと息を漏らすと静かに語り出した。
⋯
「人というのはね、往々にしてこんな事を思うものなのだよ」
クリストの、どこか遠くを見るような声が食堂に響く。
「あの時こうしていれば、こんなことにならなかったのに。この時あんな事をしなければ、もっと上手くいったのに。⋯つまり、もし過去に戻れるなら、やり直したいと思うことが常にあるものなんだよ」
「「なるほど…それで?」」
リベラとガブリエラが、ふたたび言葉をそろえて先をうながした。
「今、我々は、そういった過去に起こった問題を解決する力を得た。⋯つまり、『時間移動機能』というものでね。ここまではいいかな?」
「はい」
リベラがうなずいた。
それはかつてクリストが、完成させた、本物の時空転送技術だ。
「しかし、少々の問題が起こった程度⋯たとえば、くだらない問題を解決するために過去に戻るという事は、いかにムダな事であるかも理解しているはずだ。それに、過去を不用意に改変した結果、未来が幸せになれるとも限らない。だからこそ、時間移動をする際は慎重に事を運ばなければならない。これもいいかな?」
「はい」
今度はガブリエラがうなずいた。
「そして改変の範囲はできるだけ最小限にしておいた方がいいというのもわかるだろう。あまりに改変を加えてしまうと、未来がどうなるかコントロールができなくなる可能性が高い。しかし、未来において、たいへんな問題が発生するとして、それが過去に戻る事で問題を解決したり、回避が出来るとしたら⋯君たちならどうする?」
クリストは手の中にある、ヒビの入った黒いコアを見つめる。
「そこまで考えた時、私はこの箱を作ったんだ。何度も繰り返すが、これは『何の変哲もないただの箱』なんだ。中に物が入っている時だけライトがつく箱さ。この事を知っている、未来の私たちはどうする?」
クリストの目が、リベラとガブリエラをまっすぐ見つめた。
そして、リベラが先に口を開いた。
「…未来の私たちは、この箱を使い、メッセージを送り届ける⋯かもしれません⋯」




