299.エイドスからの旅立ち
41章のあらすじ
登場人物:アイリス(22歳、ハッカー、女性)、エドワード(20歳、男性)、ミネルヴァ(AI、女性)、ギルバート(30代、商人、男性)、バルガス(男性)、バロウズ(50代、男性)
カイトの誘拐を知り、エドワードの視察に乗じてアヴァロン2へ向かうアイリス。しかし宇宙海賊のテロで軌道エレベーターが切断され、アイリスは宇宙空間に孤立してしまう。アイリスの能力を使うことで、アヴァロン2への潜入に成功。さらに、ステーションの大半を制圧するが、カイトの危機的状況にアヴァロン2の強制パージという強硬手段に出る。ギルバートの助けを受け、エイドスへ帰還する一行。病状が悪化したカイトを救うため、アイリスは、共に高度な医療施設を持つアヴァロンへ向かうことにした。
「アイリスさん。気をつけて行ってきてください!」
アヴァロンへ旅立つ直前、エドワードは恋する男の眼差しでアイリスに声をかけた。
「ん」
しかし、アイリスはいつも通り、そっけない適当な返事を返す。
「アイリスちゃん、エイドスの事は気にするな!俺たちがしっかりと管理しておくからよ。カイトの治療に専念してきな」
裏社会の顔役であるバロウズが、安心させるようにガハハと笑う。
隣ではバルガスも無言で深く頷いていた。
アイリスはエドワードに対する態度とは異なり、ふたりの不器用な優しさをまっすぐ受け取り、胸が一杯になると、我慢できずにふたりまとめてギュッと抱きついた。
「おいおい……」
おっさん同士がアイリスの力で顔を寄せ合わされ、少しイヤそうな顔をする。
だが、娘のようなアイリスを慈しむように、それぞれ自由な方の手で、その小さな頭をそっと撫でるのだった。
別れを惜しみつつ、アイリスはカイトのコールドスリープポッドと共にギルバートの『スターブリンガーⅡ』へと乗り込んだ。
しかし、これがエイドスの皆との、最後の別れになるとは、まだ誰も知らない事だった。
⋯
「アイリス。お前、またやりすぎたな」
出港した船内で、操縦席のギルバートから呆れたような軽いお小言が飛んできた。
「ミネルヴァから連絡があったが、お前がむやみに倉庫をパージしたせいで、アヴァロン2の軸がズレたそうだ。おかげで工期がさらに3か月延びたって嘆いてたぞ」
セキュリティ面の大規模な見直しも含め、ステーションの正式運用にはまだまだ時間がかかると思われる。
対して、今回のアヴァロンへの航路は何の障害もなく、極めて平穏に終わりを迎える事ができた。
⋯
一方、エイドスに残されたミネルヴァは、今回の「アヴァロン2の半壊」という大事件をどう解決すべきか頭を悩ませていた。
民衆の間では、正確な公式発表がないために不穏な憶測が飛び交い始めている。
そこでミネルヴァは、事件の際にカメラクルーたちが撮影していた映像を利用することを思いつく。
都合のいい部分だけを巧妙に繋ぎ合わせ、一大エンターテインメント映画に仕上げて世論を誘導する計画を実行した。
その際、バルバロッサからの依頼でアイリスの姿はAI加工によって可憐な別人のヒロインへと差し替えられた。
映画の主役は、宇宙海賊のテロに果敢に立ち向かうエイドスの若き社長・エドワード。
彼の役者のように整った顔立ちと、恐怖に立ち向かう熱い演技は、公開されるや否や瞬く間に多くの女性たちを惹きつけた。
物語のクライマックスは、可憐な美少女と王子様のハッピーエンドではない。
宇宙船に乗り込み、病の弟と共にエイドスを去る感動的なシーンには、劇場の誰もが涙を流した。
そして、恋する女性にフラれた独身の若社長がエイドスに残った。
この結末は、現実の女性たちにとって最高のバイアスとなり、彼の支持率は爆発的に跳ね上がることになる。
映画の最後、暗転した画面には、ミネルヴァの手によって小さく以下のような注釈が映し出された。
『この物語は事実をもとにしたフィクションです。登場人物の一部は人権を尊重し、名前や職業を創作しています。』




