295.ハンターと獲物
「バトラー様。見つけました」
バトラーの両脇に直立する2体の美しいAIアンドロイド――ウィンとミュート。
その片方のウィンが告げると、空き倉庫のリアルタイム映像がモニターに映し出された。
「ほう。すでにこのステーションに乗り込んでいたのか、エドワード」
バトラーは、モニターを睨みつけながらニヤリと下劣な笑みを浮かべた。
「どうやら彼らは5人のようです。エドワード社長と、副社長のミネルヴァ、あとの3人は⋯撮影班でしょうか?」
もう片方のミュートが、映像を分析しながら淡々と報告する。
その時だった。
モニターの奥、撮影班のひとりと思われていた女性が、不意に顔を上げた。
それはアイリスだった。
「バトラー様、あの女性は⋯誘拐したカイトの姉です。⋯なぜエドワードとともにあそこにいるのでしょうか?」
彼らにとって、アイリスは『復讐の道具として拉致した子供の身内』程度の認識に過ぎなかった。
しかし、アイリスは、まるで画面の向こうから自分たちを知覚しているかのように、カメラのレンズを真っ向からニラんでいた。
コントロールルーム内の温度が一段下がったかのような錯覚さえ覚えた。
アイリスの口元が動くと、それに連動して、バトラーたちのいる部屋のスピーカーから爆音が響いた。
『見つけた? 勘違いしないで! コッチが見つけたんだ!』
それは、絶望の宣告だった。
「お前がバトラー?⋯ もう絶対に逃さない! 弟にしたヒドいことを、お前にも味わわせてやる!」
画面越しに放たれた凄まじい怒気と、逆探知をしてきた異常なハッキング技術に、ウィンとミュートは恐怖した。
「ウィン!早く接続を切って!」
ミュートが声を荒らげて叫んだ。
ウィンが強引に回線を遮断すると、モニターの明かりもぷつんと消えた。
コントロールルームに一瞬の静寂が戻り、2体のアンドロイドは大きく息を吐き出した。
しかし、安堵したのも束の間、消えたはずの画面が再び勝手に立ち上がった。
⋯
「 今度はお前たちを捕まえてやる!」
モニターの中で、アイリスが不敵に笑っていた。
彼らが占拠していたはずのコントロールルームは、すでにアイリスの支配下に置かれていた。
時を同じくして、宙賊たちが根城にしている100箇所の倉庫のモニターが一斉に立ち上がった。
すべての画面に、狼狽するバトラーたちの姿がリアルタイムで映し出される。
アヴァロン2全域に厳かな男性の合成音声が流れ始めた。
『宙賊たちに伝える。エドワード様は、これまでの犯行のすべてを許す準備がある。ただし、そのためには犯行を指示した者を申告する必要がある。ココにバトラーを連れて来るのだ』
モニターの映像が切り替わり、アヴァロン2の表層にある、1つの倉庫の座標が指定された。
『なお、連れて来ることに成功した者には、3億クレジットを支払おう。なお、バトラーの生死については問題にしない』
再びモニターの映像が切り替わり、今度はアヴァロン2の内部マップが表示され、バトラーたちが不法占拠しているコントロールルームの場所に、真っ赤なマーカーが点灯した。
『さぁ、人生をやり直すチャンスだ! 急げ!!』
そこで音声は終了したが、モニターは、バトラーの現在地を晒し上げたまま点き続けていた。




