289.見えない傭兵
カメラクルーが慌てて窓の方へレンズを向けると、漆黒の宇宙空間に1隻の宇宙船が近寄ってきていた。
『カーゴの落下には失敗したが、お前は計画通り拘束させてもらうぞ、エドワード』
男の声が響き渡ると同時に、不審船から接舷用の巨大な強襲パイプが容赦なく伸び、こちらのカーゴへ連結しようと迫ってくる。
『抵抗をしてもム⋯』
男が勝ち誇ったように話しを続けている途中で、その不審船の船体が突故として片方へ流れた。
直後、目も眩むような大爆発が宇宙空間に炸裂した。
宇宙であっても、至近距離での爆発の光と衝撃波は容赦なくカーゴを襲った。
凄まじいエネルギーに揺さぶられ、カーゴ全体がきしむような音を立てて激しく震える。
「きゃああっ!?」
アナウンサーの短い悲鳴が響き、カメラマンも機材を抱えたまま床に激しく叩きつけられた。
やがて揺れが収まり、窓の外に広がったのは、バラバラに砕け散っていく不審船の無残な残骸と、空間に広がる爆炎の光だけだった。
あまりにも一瞬の出来事に、カーゴ内は静まり返る。
「⋯何が起こったの?」
ミネルヴァですら、目の前で起きたあまりに突発的な光景が理解できず、呆然と声を上げた。
その瞬間、ミネルヴァへ直接、クリアな音声が飛び込んできた。
『⋯私が撃破した』
電脳に直接接続できるアイリスからの、通信だった。
カーゴ内のアナウンサーは、目の前で起きた大爆発に混乱しながらも、なんとか状況を実況しようとする。
「先ほど、不穏な通信を送ってきていた不審船が⋯急に、爆発しました⋯? 一体何が起きたのでしょうか⋯!」
生中継の緊迫感が張り詰める中、状況を飲み込めない一同に代わり、頭の回るミネルヴァがマイクの前へと進み出た。
「ご視聴中の皆様、ご安心ください。われわれアヴァロン商事は、今後のアヴァロン2の安全な運用のために、星間警備会社の立ち上げと運営を予定しております」
現在はその試験運用として、周辺宙域に、信頼できる近隣の傭兵を護衛サポートとして極秘裏に配備していた事。
先ほどの不審船は、その警備網にかかり、迅速に撃破された事を説明した。
「えっ、傭兵ですか!?」
アナウンサーが驚きの声を上げる。
「どこにいるんです?」
カメラマンは慌てて窓の外をキョロキョロと映すが、漆黒の宇宙空間にその姿を捉えることはできない。
ミネルヴァは、カメラを遮るように手をかざした。
「これ以上の詳細は、弊社の警備上の機密事項に当たりますので、今は伏せさせて頂きます」
ここで、エドワードが再びマイクの前に立ち、自分が無事であることを改めて強くアピールした。
「ご覧の通り、アヴァロン2の防衛システムは完璧です! 私は完全に無傷です!」
地上からの割れんばかりの歓声をバックに、ミネルヴァの合図で一旦テレビ放送は打ち切られた。
⋯
臨時のCMへと切り替わったのを確認し、ミネルヴァはカメラクルーをキャンピングカーの外へと待たせた。
ミネルヴァはエドワード、とアイリスに向き直った。
「アイリスさん。先ほどのはどうやったのですか?」
ミネルヴァが尋ねるとアイリスは素直に答えてくれた。
「⋯リベラがこの付近に、多数の特攻船を待機させてる。そのうちの1隻を使って、不審船に激突させた」
アイリスはフンスと鼻をならし誇らしげに言った。




