287.頭上の質量兵器
軌道エレベーターは、地上と静止軌道を結ぶ巨大な2本の超高張力ケーブルによって成り立っている。
静止軌道までカーゴを上昇させる場合、構造上の重量バランスを取るため、もう1機の同型カーゴが静止軌道から地上へ向けて同時に下降する仕組みになっている。
アイリスが操作し、モニターのカメラ映像を切り替えた。
次に画面に映し出されたのは、ケーブルの断裂に巻き込まれ、制御を失った下降中のカーゴだった。
エイドスの重力に引っ張られ、2トンもの質量を持つカーゴが猛烈な勢いで落下を加速させていた。
爆発の衝撃で放り出されてから、カーゴは刻一刻と速度を上げながら地表へと突き進んでいた。
ミネルヴァは即座に計算を行った。
「地上到着まで⋯残り1分を切りました。まだ、安全装置が動いていません!」
アイリスは猛スピードで落下を続けるカーゴに向けて直接ハッキングをかけた。
それを何者かが強力なジャミングを仕掛けて妨害してきたが、アイリスは強引に割り込み、強制的にパラシュートを開いた。
「減速しだしました⋯ですが、このままだと時速450キロで式典会場に突っ込みます!」
ミネルヴァが今後の被害予想を報告した。
「残り10秒、9、8⋯」
悲痛な感じでミネルヴァがカウントダウンをはじめた。
この頃には、会場で上空を見上げていた人たちも、頭上で何が起こっているのかを理解しだしていた。
自分たちの真上から、巨大なカーゴが猛烈な勢いで落ちてきているのだ。
会場のあちこちから悲鳴が上がった。
「6、5⋯」
ミネルヴァの秒読みがそこで止まる。
「⋯動いた!」
アイリスはこの絶望的なタイミングで、カーゴの緊急スラスターへのアクセスに成功した。
強力な上昇スラスターが凄じい逆噴射を起こしたお陰で、カーゴは完全に減速することができた。
アイリスが脳内で冷静にスラスターを操作し、人のいない安全な場所へとカーゴを無事着陸させる。
奇跡的に、地上での被害はゼロだった。
しかし、安堵が広がるのも束の間、このタイミングで式典会場付近にあるすべての大型モニターが突然ハッキングを受け、同じ映像を一斉に流しだした。
モニターに映し出されたのは、不気味な仮面を付けた男の姿だった。
「われわれは宇宙海賊『ダークバトラー』だ! この大事故はわれわれが起こした! われわれはエドワード社長の身柄を拘束した。彼を五体満足で返してほしければ2000億クレジットを用意しろ! 受け渡し方法は追って指示する」
それだけを一方的に告げると、映像はプツリと切れた。




