284.頭上の敵
「何ぃ!? アイリスちゃんの弟がさらわれただって!?」
洗練されたモダンなインテリアが並ぶアヴァロン商事の社長室。
ミネルヴァに呼び寄せられた裏の顔役バロウズとバルガスは、大声を響かせた。
仕立ての良いパンツスーツに身を包んだミネルヴァは有能な秘書の姿をしていた。
「はい。先ほどセレノグラフィアのミラ社長より緊急通信がありました」
ミネルヴァは淡々と事実を報告する。
ドレッドノートの組織が総出で捜索に当たったものの、犯人グループがカイトを連れてすでに宇宙へ飛び立ったことまでしか分からず、その後の足取りが完全に途絶しているという。
「じゃぁ、今すぐアイリスちゃんに伝えよう!」
「いえ、今彼女に知らせても心配と焦燥を増幅させるだけです。まずは私たちが対策を決めるまで、伏せておくべきかと」
「⋯確かに、その通りだ。アイリスちゃんに今の状態を知らせたら、何をしでかすか分からねえ」
バルガスが腕を組み、苦渋の表情で同意する。
皆で今後の対応を考えようとしたまさにその時だった。
ミラに続いてギルバートから、ミネルヴァに緊急通信が入ってきた。
「ギルバートさんから、今情報を入手しました。⋯犯人の船は、私たちがいるエイドスの上空、建設中の『アヴァロン2』に逃げ込んでいるようです」
「なんだって!? だが、よりによってアヴァロン2だと!」
バルガスは頭を乱暴に掻きむしった。
彼ら『バルバロッサ』はエイドスの裏社会の統制においてはそれなりの強さを誇る。
しかし、宇宙空間となれば話は別だ。
宇宙海賊は彼らの専門外だった。
「どうしたもんか。手下を突入させるにしても、未完成のステーション内じゃ身動きが取れんぞ」
バルガスが唸る中、ミネルヴァが、一つの案を導き出した。
「明日、ちょうどエドワード社長の『アヴァロン2』への公式視察を検討していました。まずは、このタイミングを利用して、現地へおもむき、内部調査を行なってみましょう」
「なるほど。社長の視察なら自然だな。よし、まずはミネルヴァさんよろしく頼むよ」
バルガスはそう言ってミネルヴァに調査を依頼した。
しかしこの時、この社長室で行われていたこの会話が、何者かによって『盗聴』されていることに、この3人は微塵も気が付いていなかった。
⋯
翌日。エイドスの大地は、割れんばかりの歓声と熱気に包まれていた。
地上と宇宙を繋ぐ巨大インフラである『軌道エレベーター』の完成式典。
この軌道エレベーターは、上空で建設が進む『アヴァロン2』の本格的な完成に先駆けて、先行運用を開始する形となっていた。
これまでの高コストな宇宙船による往来とは異なり、宇宙と地上を格段に安価につなげることができる、まさに次世代の乗り物だ。
このエレベーターの完成により、宇宙からエイドスへの資源運搬量が今後指数関数的に増えることが見込まれており、街のさらなる発展への期待から、会場は未来への希望に満ちあふれていた。
その晴れ舞台に、久々に表舞台へと姿を現したのは、エイドスの繁栄を象徴するアヴァロン商事のエドワード社長だった。




