280.満身創痍の帰路
「ねぇ、ナノマシンって一体何なの?」
ブリッジのリラが不思議そうにギルバートに尋ねた。
「宇宙空間で使える資源を集めるヤツだって、前にリベラが言ってたな。今回はあの宇宙船に取り付いて、分解に使ったんだ」
ギルバートは、何をやったかをざっくりと説明した。
「えっ、それってこの船は大丈夫なの? すぐ近くにいるじゃない」
「ああ、問題ない。あのバトラーの船だけを狙って襲うように、で設定したからな」
「誰が?」
「俺が」
「なんでアンタがそんな事できるのよ!?」
リラが目を丸くして鋭く突っ込むと、ギルバートはぴたりと動きを止め、少し困ったように頭を掻いた。
「…確かに言われてみればそうだな。何でだろう?」
今回の絶望的な状況を、自分自身よく分からない能力で回避したことに、ギルバートは今さらながら気がついた。
なぜかナノマシンの制御が直感的に理解できたのだ。
「『リベラならこれくらいできそうだな』って頭の中で強く思ったら、なんかできちゃったんだよ」
そんな分かるような分からないようなギルバートの説明に、リラは呆れたようにため息をついた。
「ところであの船はどうするの?」
リラはメインモニターに映る、表面がボロボロになりつつある軍用艦を指さした。
「リベラたちを襲ったのかどうか、直接問い詰めたい所だが…こちらもかなりの手負いだからな。あれは放置して、このまま先に目的地であるセレノグラフィアに向かわないか?」
ギルバートは、動けなくなったバトラーたちをこの宙域に放置して、先へ進む事を提案した。
いつまでも重い宇宙服を着続けるのも体力的に大変だったため、リラも先生もその意見に同意した。
スターブリンガーは出力を慎重に調整しながら、沈黙したバトラーの船の横を静かにすり抜け、セレノグラフィアへと進路を取った。
⋯
セレノグラフィアに到着する直前、ギルバートはミラに状況連絡を入れ、宇宙港でのサポートを依頼した。
スターブリンガーがどうにか宇宙港に滑り込むと、そこにはミラと3体のアンドロイド、そしてミラが事前に連絡を入れておいてくれたドレッドノートの部下数名が、緊迫した面持ちで待ち構えていた。
「みんな、無事?」
ミラの声に、ギルバートたちはうなずき返した。
ひとまず船の修理を含めたその場の対応をアンドロイドたちに任せ、ギルバートたちは拠点へと戻ることにした。
ここで、同行した先生とは別れることとなった。
先生はギルバートの前に立つと、いつも通りの冷静な眼差しで一礼した。
「ギルバートさん。あなたのお陰で命拾いしました。心から感謝いたします。ありがとうございます」
その光景を見ていたドレッドノートの部下たちは、驚きを隠せなかった。
組織のなかでも格闘戦では負け知らず、文字通り最強と謳われるあの「先生」が、頭を下げて感謝を述べている。
しかもその相手は、一見するとどこにでもいる普通の若者にしか見えないギルバートなのだ。
部下たちは、ギルバートの背中に畏敬と尊敬の視線を送りながら、静かに彼らを見送った。




