279.知略の勝利
『ハハハ! もう打つ手がないな!』
勝ち誇ったバトラーの笑い声が、通信機からブリッジに響き渡る。
圧倒的なまでの実力差を見せつけられ、絶望がリラを支配した。
しかし、自分の足でしっかりと立ったギルバートだけは、不敵な表情を崩していなかった。
「いや、そうでもないさ」
ギルバートは静かに、バトラーの言葉を否定した。
敵船のバリアが再び切れ、主砲に最後の一撃となるであろうエネルギーが集まりだす。
スターブリンガー側にはもう盾になる瓦礫も近くになく、完全に打つ手を失った状態にまで追い込まれていた。
誰もがそう思った、その時だった。
ギルバートは、まるで勝利を確信したかのように、穏やかに話しはじめた。
「…仕込みは終わった」
「何言ってるのギル! さっさと避けないと撃たれるわよ!?」
焦るリラがギルバートの衣服を引っ張る。
しかし、ギルバートは静かに、メインモニターにうつる敵船を指さした。
「見てみろ」
異変はすぐに起きた。
バトラー艦の主砲に集まっていたエネルギーの光が、明滅しだしたかと思うと、見る見るうちに弱くなっていったのだ。
それだけではない。
巨大な軍用艦の明かりが、前方から後方へと、まるでドミノ倒しのように停電を起こして次々に消えていく。
主砲のエネルギーは完全に霧散し、あれほど圧倒的だったバトラーの船は、すべての動力を失って沈黙した。
「えっ? 一体何が起こったの?」
呆然とするリラがつぶやく。
リラの隣に立つ先生も、モニターを凝視していた。
ギルバートは呼吸を整えながら、その種明かしを教えてくれた。
「リラ、さっきの資源運搬船が、何を積んでいたかわかったか?」
「さぁ? 特に何も積んでいなかったように思ったけれど…」
「実はな、あの運搬船には『ナノマシン』が大量に積まれていたんだよ。資源採掘で、資源を分解し、吸収するためのやつさ」
ギルバートは不敵に笑い、真相を明かした。
「最初の2隻に積まれていたナノマシンは、残念ながら爆発に巻き込まれて四方へ霧散してしまった。だがな、最後の3隻目は違った。バトラーの船のバリアで、船が半分に引き裂かれただろう?」
ギルバートは、モニターの中でみるみる表面がボロボロに変色し、装甲が崩れ落ち始めたバトラーの艦を指差した。
「バリアの内部、つまりあの船の至近距離に残された運搬船の残骸から、無数のナノマシンが船体へと乗り移ったんだ。結果、ナノマシンがエネルギーを一瞬で食い尽くし、資源に分解しはじめた。…それがこれさ」
あの船にナノマシンを「密着」させることができたギルバートの、執念の勝利だった。
車椅子から立ち上がり、敵を見据える大商人は、誇らしくブリッジに勝ちどきをあげた。
「これで、俺たちの勝ちだ!」




