278.巨象とアリ
とうとう1隻を残し、すべての敵艦を蹴散らしたギルバートたちだった。
しかし、残ったバトラーの艦はこれまでの敵船とは明らかに違っていた。
その船はバトラーが軍を去る際、退職金の代わりとして当時の母艦を勝手に盗み出した、本物の軍用艦だった。
しかし、海賊に成り下がった現在の彼らでは十分なメンテナンスを施すことがかなわず、出力は30%減、主砲のレーザーもあと数発しか撃てない状態になっていた。
おまけに操作に必要な最低人数だけでギリギリ動かしているという、内情は満身創痍の状態だった。
とはいえ、手負いのスターブリンガーを撃ち落とすだけであれば、巨象がアリを踏みつぶすようなもの。
軍用艦としての十分な能力は未だ残っていた。
特にバリアは一級品であり、何者をも寄せ付けない『拒絶の壁』として機能していた。
しかしながら、頼みの綱であった味方艦を全滅させられた今、バトラーにとっては致命的な痛手が生じていた。
バリアを解除しなければ、こちらから攻撃を仕掛けることができないのだ。
通信スピーカーから、バトラーの忌々しげな、だが冷徹な声が響く。
『私の完全な見誤りだ。これほどの事を、お前たちがやっているとはな。今となってはお前たちを人質に取り、あのリベラを苦しめる計画も諦めざるを得ない。せめて、ここで私と共に宇宙の藻屑となれ』
バトラーの船の周囲を展開していたバリアが切れた。
そう思った直後、その巨大な主砲に眩いエネルギーが集まりはじめた。
「い、いかん!」
立ち上がっていたギルバートが、鋭く声を上げる。
スターブリンガーを、前方の宇宙空間に漂うデブリや瓦礫で身を隠しながら高速で移動させた。
移動した直後、視界を焼き尽くさんばかりの光の帯が、さっきまでスターブリンガーがいた空間を猛烈な速度で通り過ぎていった。
エネルギーが奔ったその軌跡には、まるで空間そのものが削り取られたかのような、真っ暗な道がぽっかりと出来上がっていた。凄まじい破壊力だった。
「このまま、防戦一方ではジリ貧か…!」
ギルバートは急いで周囲の特攻船を再び呼び寄せ、間髪入れずに波状攻撃を仕掛けた。
しかし、バトラーの艦は攻撃直後にバリアを再展開しており、特攻船の決死の突撃はことごとくその光の壁に阻まれて爆散していく。
ついに、呼び寄せ可能な特攻船を全て使い切ってしまった。
「まだだ…!」
ギルバートは再び、近くの宙域を航行していた『資源運搬船』を3機、無理やり呼び寄せた。
しかし、元より脚の遅い資源運搬船では、バトラーの船で展開されるバリアの前には太刀打ちができなかった。
バトラーの迎撃は迅速かつ正確だった。
向かってくる3機の資源運搬船のうち、1機は強固なバリアの接触によって消滅させ、もう1機は主砲から放たれたレーザー砲で一瞬のうちに消し飛ばした。
だが、最後の1機が、絶妙なタイミングでバリアの内側まで入り込むことに成功した…かと思いきや。
『甘いな、商人風情が!』
バトラーが操艦システムを叩く。
高速バリアが特殊な形状へと変化し、滑り込んできた資源運搬船を左右から激しく挟み込む型で、完全に防御しきってみせたのだ。
3機目の運搬船もまた、激しい火花を散らしてバリアの狭間で圧壊した。




