277.執念のシンクロ
「クソっ、残りは動きが違いすぎる!」
生き残った10隻の敵艦は、他とは一線を画す精緻な回避能力を持っていた。
特攻船の直線的な軌道を見切り、紙一重ですべて避けてみせた。
さらに、バトラーの乗る母船は強固なバリアを展開しており、生半可な攻撃を寄せ付けなかった。
手札が尽きかける。
「覚悟を決めるか…」
ギルバートが、ふっと諦めるようなセリフを吐き出した。
「ギル…」
リラが悲痛な声をあげてギルバートに近寄った。
しかし、夫の顔を間近で見た瞬間、その目がまだ死んではいない事に気がついた。
130年を生き抜いた大商人の、全てを賭けた時のギラついた眼光が、そこにはあった。
その時、残った敵船団に向けて、特攻船の1機が猛烈なスピードで突っ込んでいった。
敵の精鋭艦は、お決まりのルーティンで回避行動をとった⋯ハズだった。
だが、特攻船は、まるで敵がそこに動くのを知っていたかのように、回避先へと軌道を曲げ、その鼻面に思い切り突っ込んだのだ。
「グッ…まだまだぁぁぁ!!」
ギルバートが、大声をあげて苦しげに絶叫した。
その直後、また別の特攻船が飛び込んできた。
それも先ほどと同じく、予測回避を行った敵艦の動きを完全に読んで、逃げ道へと突っ込み、木っ端微塵に粉砕した。
リラと先生は、目の前で起きている事態の正体に気がつきはじめた。
ギルバートは、ただ指示を出しているだけではなかった。
自身の意識のすべてを、あの特攻船と完全にシンクロさせて操縦していた。
それは同時に、特攻船が敵艦に激突して爆散する『死の瞬間』の凄まじい衝撃をも、ギルバートがダイレクトに喰らい続けていることを意味していた。
毎回、強烈な臨死体験の苦痛が彼を襲い、精神をズタズタに引き裂こうとする。
だから、あれほど苦しげに叫んでいるのだ。
「う、おおおおおおおッ!!」
激突の度に、ギルバートの身体が電流を流されたように大きく跳ね上がる。
そして、信じられないことが起きた。
強烈な激痛の中で、車椅子に座り、右手しか動かなかったはずのギルバートの「左手」が跳ね上がり、ひじ掛けを強く掴んだのだ。
「が、はっ…あぁぁぁ!!」
また1隻が爆散した。
その瞬間、ギルバートは背筋を強烈にのけぞらせると、なんと車椅子から自らの足で、勢いよく立ち上がった。
リラが息を呑む。
震える足を踏みしめ、ギルバートは一歩、また一歩と、メインモニターに向かって歩いていく。
その眼差しは、バリアを張って立ち往生しているバトラーの母船を完全に捉えていた。
『死の瞬間』という圧倒的な衝撃。
その『刺激』の連打が、眠っていた完全義体の神経細胞を強制的に叩き起こし、彼の肉体の機能を爆発的に復活させていた。
そうして気がつけば、バトラーの艦を残しすべての敵艦が沈黙していた。




