276.死中の活路
静寂を無残に切り裂き、鼓膜を刺すような緊急警報が再び鳴り響いた。
リラが弾かれたように正面のメインモニターへ視線を走らせると、そこには無数の光点が明滅していた。
完全に進路を断つ形で、所属不明の50隻の船団が前方に展開していた。
直後、ノイズ混じりの通信が入った。
『オレの名はバトラー。お前たちが、あの不愉快な⋯リベラの協力者であることは既に掴んでいる。おとなしく我々の拘束を受け入れ、投降してもらいたい』
物腰こそ丁寧だが、絶対的な通信は静かに切断された。
「ギルバートさん、どうしますか?」
表情ひとつ変えずに、先生が静かに問いかける。
「あえて敵を接舷させ、船内に侵入してきたところを私が各個撃破するという手もありますが⋯」
容赦のない提案だったが、車椅子のギルバートは首を横に振った。
「いや、無理だろう。向こうのリスク許容度を超えた時点で、この船は外から一斉砲撃を受けておしまいさ」
元艦隊司令官である以上、盤面の有利を無駄にするような甘さは期待できない。
スターブリンガーのエンジンは片方しか動かず、逃げることもできない。
完全に詰んでいた。
ブリッジを重苦しい沈黙が支配する。
「いや、待てよ⋯」
しかし、ギルバートは諦めていなかった。
しばらく黙り込んでいたが、不意に、不敵な笑みを浮かべた。
「なんとか、いけるかもしれない」
「え?」
リラが振り返るのと同時だった。
敵艦隊の中央付近、もっとも密集していたエリアの一角で、凄まじい大爆発が巻き起こった。
ギルバートが呼び寄せた、1機の特攻船が敵のど真ん中へと突き刺さったのだ。
また、艦艇同士の距離が近すぎたために、大爆発のエネルギーが周囲の船へと次々に伝播していく。
凄まじい連鎖誘爆。
たったの1撃で、50隻いた敵船団の3割が光の泡となって消滅した。
この混乱の中、近くを航行していた自動制御の『資源運搬船』の3機を無理やりこの戦場へと呼び寄せていた。
ギルバートは敵船団の間に割り込ませた資源運搬船を壁にしながら、スターブリンガーを後退させた。
まだ圧倒的劣勢には変わりなかったが、辛うじて最悪の間合いから脱することには成功した。
通信スピーカーから、バトラーの低く冷ややかな声が漏れる。
『……小細工を。全艦、砲撃開始。撃ち落とせ』
命令に従い、残った敵船団が一斉に前進を開始し、容赦のないレーザー砲撃を放ってきた。
激しい光の束が宇宙空間を切り裂く。
ギルバートが呼び寄せた資源運搬船は、見事に身代わりとなってレーザーを防いでくれた。
しかし、猛攻の前に装甲が融解し、1隻、また1隻と爆散して数を減らしていた。
しかも、スターブリンガーは後退しかできない。
それはつまり、目と鼻の先にあるはずの目的地「セレノグラフィア」からどんどん遠ざかっていることを意味していた。
ジリ貧の状況は相変わらずだった。
「もってくれよ…!」
ギルバートは、大破していく資源運搬船のデブリの合間を縫うようにして、さらに特攻船をかき集め、次々に突撃させた。
執念の波状攻撃で、敵船団の大半を撃破せしめた。




