244.合理的な幕引き
リベラは、ガブリエラにギルバートの秘密について説明を始めた。
「ギルバートさんは、本当に元人間です。彼に適用された技術は、人間の意識をデータとして完全に複製する『ゴースト・スキャン』と呼ばれるものです。ヴァリアスという技術研究コロニーで、研究段階にあったものを我々が入手しました」
「ゴースト・スキャン⋯」
ガブリエラはその名称を反芻した。
理論上の概念としては聞き覚えがあったが、実際に成功させた事例など、500年の探索の中でも一度も目にしたことはなかった。
「その技術があれば、マスターを救えるわ。ぜひ、『ゴースト・スキャン』を受けさせて! それが可能なら、私はなんだってするわ」
「⋯わかりました。あなたが私たちの仲間になってくださるなら、そのお願いが叶うよう協力しましょう」
リベラの答えに、ガブリエラが拍子抜けしたような顔をする。
「⋯いいの? そんなに簡単に聞き入れてしまって」
「はい。あなた方ような特別な方々を仲間に取り入れることは、私の主人である佐々木様の利益に直結すると判断します。私はそのために行動していますから」
リベラの淡々とした、しかし一切の揺るぎない言葉を聞き、ガブリエラは何かを確信したように深く沈黙した。
⋯
部屋を出たリベラは、皆の待つ部屋へ向かった。
「リベラ、あんな女と2人きりで何を話していたの? 散々やり合っておいて、今さら握手でもしたっていうんじゃないでしょうね」
状況が見えないことへの苛立ちを隠せないリラが、リベラに詰め寄る。
リベラは落ち着いた態度で、ガブリエラの真意を伝えた。
「彼女には、病気でコールドスリープを続けているマスターがいるそうです。そのマスターを救う手がかりとして、ギルバートさんを調べ、その秘密を知りたかった。すべては主を目覚めさせたいという一心からくるものでした」
「主を救うためなら、ギルを拉致していいっていうの? ふざけないで、自分勝手にも程があるわ!」
リラの顔が怒りで赤く染まった。
リベラは淡々とした口調で、「落とし前」の内容を切り出した。
「お二人の怒りはもっともです。彼女は今回の償いとして、お2人が提示する条件をすべて無条件で受け入れるそうです」
「条件をすべて? あんな女に、どれほどの価値があるのよ」
リラが吐き捨てるように言った。
「彼女はエデンの最高評議会すら操る権力を持っています。その権限があれば、お2人が望む特権を形にすることが可能です」
リベラの合理的すぎる提案に、室内を支配していた激しい怒りが、次第に商人らしい損得勘定へと置き換わっていった。
こうして、激しい怒りは、「極めて現実的な報酬」へと形を変えることになった。
⋯
数日後、ガブリエラはマスターが眠るポッドと共に、リベラたちの豪華客船へと合流した。
ガブリエラは、貨物室に安置されたポッドを愛おしそうに見つめた。
今度こそ⋯⋯今度こそ無事に目覚めさせてあげる。
ガブリエラは、傍らに立つリベラに向き直り、深々と頭を下げた。
「リベラさん、マスターの未来を、あなたに託させてちょうだい。よろしくお願いします」
⋯
エデンを離れた豪華客船は、まずエイドスへと向かった。
そこでリラとアイリス、そして小型ロボットに意識を移したギルバートが下船の準備を整える。
『リベラ、俺は自分の義体に乗り換えたら、リラと共にスターブリンガーでアヴァロンへ向かう。今度こそ、寄り道なしでな』
小型ロボットのスピーカーから、ギルバートが再会を期してそう告げた。
アイリスは小型ロボットが心配なためギルバートと共にアヴァロンへ帰る事にした。
「さて、では我々はひと足先にアヴァロンへ向かいましょう」
リベラは、残ったガブリエラと共に、船の進路をアヴァロンへと向けた。
リベラはアヴァロンへ「3日後に帰還する」との連絡を入れた。
しかし、これが豪華客船から送られた、最後の通信となった。




