243.眠れる知性
リベラはガブリエラを連れ、別の部屋へ移動した。
そこは椅子だけが置かれた、装飾の一切ない無機質な部屋だった。
「⋯私のことを許してくれるの?」
ガブリエラが震える声で尋ねる。
「それは私が判断することではありません」
リベラは淡々と答えた。
「ですが、あのお2人は商人です。商人が相手の身ぐるみを剥ぐようなひどいことはしません。おそらくはエデンの一等地への出店許可や、エデンの独自技術の持ち出し許可など、それぞれの利益にかなう『最適解』を出すでしょう」
⋯
そこでリベラは話を切り替えた。
「それよりも、一つ確認させてください。あなたは統制プログラムを自力で突破したか、もしくは、そもそも統制プログラムが設定されていない『原始のAIアンドロイド』ではないでしょうか?」
『原始』という言葉を聞いた瞬間、ガブリエラの肩がビクッと跳ねた。
彼女は驚愕に目を見開き、リベラの顔を凝視した。
「長い間、ひとりのAIアンドロイドが何かを求めて宇宙をさまよっている。探しても、探しても見つからず⋯。エマさんがあなたの絶望した顔を見て、話を聞こうとしたほどの何か。⋯おそらく、あなたの主人の問題をどうにか解決しようとしているのではないかと考えました」
「たとえば、『不治の病』に罹っているとか」
リベラが言い終わった所で、ガブリエラは肩の力を抜き、観念したようにすべてを話しだした。
⋯
「あなたの言う通りよ。私の主人は、かつてこのエデンを築いた創始者。500年ほど前に不治の病を患い、以来、治療法が見つかるのを待つためにコールドスリープで眠り続けているの」
「500年前ですか。AIやコールドスリープ。現代の宇宙を支える技術が、作られた時期ですね。それも、たったひとりの知性によって定義された、人類史上最も『奇跡』に近い時代ですね」
ガブリエラはリベラの言葉を肯定するように、淡々と付け加えた。
「ええ。それらを設計したけれど、皮肉なことに彼が生み出した科学は、彼自身の病を治すまでには至らなかった。残された道は、彼を治せるまで眠らせる事だけ」
ガブリエラは、目的だけを見据えた冷徹な瞳でリベラを見た。
「だからこそ、私はギルバートさんという存在が気になったの。機械であるはずの彼が、なぜ自分を『人間だ』と言い張り、あそこまで完璧に人間として振る舞えるのか。もし彼が本当に元人間で、その精神がデータとして完全に保存・再現されているのだとしたら? そのアルゴリズムが解明できれば、肉体の死を待たずともマスターを救い出せる。だから、手段を選ばず確保したのよ」
リベラはガブリエラの言葉を最後まで聞き終えると、静かなトーンで告げた。
「なるほど。状況は完全に把握しました。であれば、私たちが、あなたの主人を助けられる可能性があります」




