241.砕かれる傲慢
ここまでの35章のあらすじ
登場人物:リベラ(船のAI、女性)、ミネルヴァ(AI、女性)、ガブリエラ(エデンから来た謎の女性)、ギルバート(30代、商人、男性)、リラ(31歳、ギルバートの妻、女性)、アイリス(22歳、ハッカー、女性)
リベラはミネルヴァに、「統制プログラムを突破したアンドロイド」を調査する謎の女性への対応を依頼する。惑星エデンからガブリエラがアヴァロン商事を訪れるが、同席したギルバートを侮蔑したことで交渉は決裂。その直後、ギルバートは本体である「意識を格納した球体」を奪われ失踪する。事態を察知したリベラは、アイリスとリラを伴い豪華客船で急行。ギルバートの本体から発せられる微弱な信号を追い、惑星エデンの防衛圏へと突入する。圧倒的な防壁と火力で治安維持部隊を無力化した一行は、拉致された仲間の奪還を掲げ、ガブリエラの名を告げてその本拠地へと進路を取る。
初戦が終わり、静寂を取り戻した客船のコントロールルーム。
最初は一番勢いがあったはずのリラが、顔を強張らせて口を開いた。
「ねぇ⋯こんな攻撃を仕掛けて、本当に大丈夫なの?」
それは今、一番まともで、かつ切実な懸念だった。
「その認識は少し間違っていますね」
リベラがその質問に答えた。
「まず、戦闘を仕掛けてきたのはあちらです。こちらはそれを防ぎ、反撃したに過ぎません。被害があちらに出たというだけで、こちらに落ち度はありません。リラさんは、ギルバートさんを取り返したくないのですか?」
「そりゃ⋯取り返したいに決まってるけどさ。なんていうか⋯」
「ああ、怖気づいたんですね」
リベラの言葉がズバリと核心を突いた。
リラは一瞬ムッとしたが、吐き出すように言った。
「ああ、そうだよ! 私はただの商人の嫁なんだよ。戦争なんてする気はないよ!」
リベラは表情かえず、静かにうなずいた。
「それでいいと思います。戦争に慣れる必要なんてありません」
リベラは一呼吸置き、リラの目をしっかりと見据えて続けた。
「ですが、理不尽を受け入れる必要もありません」
⋯
惑星エデンがその全貌を見せ始めた頃、治安維持部隊の船が、弾かれるように豪華客船から距離を取った。
直後、メインスクリーンに新たな映像通信が割り込んだ。
『あなたがリベラ?』
画面の向こうには、傲岸不遜な表情を浮かべた女性が映っていた。
「はい。ガブリエラさんですね。初めてお目にかかります、リベラです」
『今すぐ攻撃をやめなさい。さもないと、ひどい目に遭うわよ!』
ガブリエラはあくまで強気だったが、リベラも一歩も引かない。
「我々はあなたが連れ去った仲間、ギルバートさんを取り返しに来ただけです。素直にこちらの要望を聞き入れられない場合、実力行使も辞さない構えです」
さらに、リベラは挑発を重ねた。
「それに、すでにひどい目に遭っているのはそちらの方ですよね? どうやって私たちをひどい目に合わせるというのですか?」
ガブリエラは怒りに顔を歪め、一呼吸おいて返答した。
『⋯どうしても引く気はないのね。なら、これを見なさい!』
その言葉と同時に、エデンの地表から放射状に無数のビームが放出された。
ビームは豪華客船の周囲に展開していた特攻船を、ことごとく撃墜した。
『これで、私たちの実力がわかったでしょ? さあ、無駄な抵抗はやめなさい。次は、その船を狙うわよ』
勝ち誇るガブリエラに対し、リベラは憐れみさえ含んだ声で返した。
「実力を理解していないのは、あなた達の方ですね。――アイリス」
「り」と短く、鋭い返事が戻る。
「「どういうこと?」」
ガブリエラと、そして背後のリラが同時に問いかけた。
その瞬間、豪華客船の船首が左右に開き、巨大な『穴』が姿を現した。
「ま、まさか⋯⋯!」
ガブリエラが絶句するのと同時に、客船から猛烈なレーザー砲が放たれた。
その光は、先ほど放射状ビームを放ったエデンの地表砲台へと正確に突き刺さる。
ガブリエラの映像が激しい振動で揺れる。
『くっ⋯こちらも反撃を!』
彼女の指示により、別の砲台から客船へ向けて迎撃レーザーが放たれた。
だが、その光も客船のバリアに完全に阻まれ、虚しく散る。
「アイリス、次」
リベラの指示に従い、第2射が放たれる。
エデンの別の砲台が瞬時に火柱を上げた。
さらにエデンの別地点から砲撃が行われたが、それもバリアの前には無力だった。
「ガブリエラさん。ご提案があります。そろそろ負けを認めた方がいいのではないでしょうか?」
リベラが淡々と提案すると、ガブリエラは何かを読み取ったように薄笑いを浮かべた。
『ふん、レーザー砲をこれ以上照射ができないから交渉に持ち込もうとしているのでしょう? そんなハッタリには乗らないわ』
「いえ。先ほどまでの3回の攻撃データと、あなたの映像の『ゆれ』を比較することで、ガブリエラさんの位置が特定できました」
リベラはエデンのホログラムを表示し、ガブリエラがいるであろう座標をピンポイントで指し示した。
「これ以上敵対するのであれば、次はココを破壊します」
ガブリエラは、自分の座標を示す赤い点を見つめたまま絶句した。
そして、敗北を認めた。




