240.魂の信号
コントロールルームのホログラム経路図を覗き込んだリラは、不審そうに眉を寄せた。
「ねえ、リベラ。この船、エイドスに向かってるんじゃなかったの?」
「現在は進路を修正しています」
リベラが淡々と答えると、リラは驚いて声を荒らげた。
「はあ!? なんでよ! エイドスにギルを探しに行くんじゃないの!」
「エイドスのミネルヴァさんから、ギルバートさんが見つかったとの連絡がありました」
「えっ、見つかったの? だったら話は早いじゃない! 今すぐエイドスへ向かって、あのバカをさっさと拾ってよ!」
リベラは詰め寄るリラの前に手をかざし、それ以上の言葉を制した。
その静寂に、リラは不穏な気配を感じて口を閉ざす。
「見つかりはしたのですが、中身が『からっぽ』でした」
「からっぽ? 何を言ってるの、リベラ」
リベラは無言のまま、着ていた服のチャックを開け、肌をあらわにした。
更に、しばらくすると、プシューと音を立て、胸部隔壁が展開した。
そこには、『黒い球体』があった。
「AIアンドロイドの本体は、実はこの球体です。同じく、『ゴースト・スキャン』を受けて意識をデータコピーしたギルバートさんも、同様の球体が胸元に格納されています。この球体は、体から離れると微弱な信号を発信します」
リベラは、残酷な事実を告げた。
「見つかったギルバートさんの義体からは、この球体が何者かによって抜き取られていました。エイドスに残されていたのは、中身のない義体だけです。そして今、私たちが追いかけているのは、奪い去られた球体が発している微弱な信号です」
リラはその場に凍りついた。
「じゃあ、アイツは⋯ギルは今、その、玉だけの状態でどこかに運ばれてるってこと?」
「はい。その信号は現在、惑星エデンへと向かっています」
リラは震える拳を握りしめた。
⋯
豪華客船が惑星エデンへと続く宙域に差し掛かった時、前方に整然と展開する艦隊が現れた。
直後、コントロールルームに通信が入った。
『警告。我々は惑星エデンの治安維持部隊である。ここから先はエデンの管轄領域だ。許可なく接近することは認められない。直ちに反転し、この宙域から離脱せよ。従わない場合は、敵対勢力とみなし攻撃を開始する』
リベラは表情一つ変えず、通信機に向かって冷静に答えた。
「我々はエイドスから拉致された仲間を追ってここまで来ました。速やかなる仲間の返還を要求します。返還に応じず、我々に対して敵対行動を取る場合は、相応の対処をさせていただきます」
豪華客船は進路を変えることも、スピードを緩めることもなく艦隊へと突き進んだ。
治安維持部隊の隊長が冷酷な指示を下した。
『やむを得んな⋯全艦、攻撃開始!』
次の瞬間、各艦艇からレーザーが客船のスラスターを狙って発射された。
しかし、その光の束は船体に触れる直前、客船の周囲に展開された不可視の障壁に阻まれ、火花を散らして霧散した。
「なんだ? あれはただの民間客船ではないのか!」
完璧に攻撃を防がれた隊長は、驚愕に目を見開いた。
その直後だった。
通信回線に、部下たちの悲鳴と爆発音が混じり始めた。
「一体何が起こっている? 報告しろ!」
隊長が怒鳴るように問い返すと、オペレーターが震える声で叫んだ。
『わ、わかりません! 客船以外のどこからか攻撃を受けているようです!』
再び豪華客船から通信が入った。
「繰り返します。我々の目的は仲間の返還です。あなた方が敵対行動を取らなければなにもしません。『ガブリエラ』という方を追ってココまで来ました」
ガブリエラの名前を告げた途端、残存艦隊は道を空けるように後退をはじめた。
被弾して漂流する味方艦を置き去りにしたまま、残存艦隊と客船は一定の距離を保ち、エデンへと向かった。




