239.精鋭部隊の選定
ギルバート失踪の報がアヴァロンに届いたのは、それから2日後の事だった。
情報を聞いたギルバートの妻、リラは半ば発狂した。
「アイツ⋯また人に心配をかけて、何を考えてんだ!」
怒声とともに、リラは勢いよく食堂を飛び出そうとした。
「リラさん、どこへ行かれるのですか?」
その背中を、リベラが静かに、だが鋭く呼び止めた。
「エイドスに行くに決まってるだろ!」
「お待ちください」
リベラはリラを制すると、傍らにいた佐々木に向き直った。
「佐々木様。客船の試運転も兼ねて、私にエイドスへ行かせてください」
「じゃあ、僕も―」
佐々木が言いかけたが、リベラは首を振った。
「いえ。今回は何が起こっているのかまだ不明です。佐々木様まで捕まるような二次災害は絶対に避けなければなりません。捜索メンバーは慎重に選ばせてください」
そう言うと、リベラは術後の経過も順調なアイリスに視線を向けた。
「アイリスさん、手伝ってもらえますか?」
「りょ」とアイリスは短く応じた。
「私も行くよ!」
食い下がるリラに、リベラは冷淡に言い放った。
「今回は足手まといになる可能性が高いです。ご遠慮ください」
その言葉に、リラは不敵に笑った。
「私を誰だと思っているんだい? 私が足手まといかどうか、その目で直接確かめてもらおうじゃないか」
⋯
佐々木とメイリンが見守る中、リラたちは練習場へと移動した。
リラが対峙するのは、アイリスが操作する運搬ロボット。
そしてリラが手にしているのは⋯一本の金属バットだった。
「佐々木様が心配します。リラさんには怪我をさせないでください」
リベラがアイリスに小声で依頼し、勝負が始まった。
これまでのアイリスはヘッドギア型のデバイスで操作を行っていたが、今は無線での直接操作が可能になっていた。
その結果、ロボットの反応速度はこれまでの1.7倍にまで高速化していた。
ロボットは目で追うのも困難なスピードで移動し、リラを翻弄した。
リラは大ぶりのバットで脳天を捉えようとするが、あまりの速さに空を切るばかり。
20発ほど空振りを続けたところで、リラはバットを杖にして息を切ら
し、その場にしゃがみ込んでしまった。
アイリスはリラを拘束しようと、リラの背後から覆いかぶさるように迫った。
だがその瞬間、リラはバットの柄に仕込まれたボタンを押した。
先端からヒュッと何かが飛び出し、ロボットの目元を直撃する。
直後、強力な電流が走り、ロボットの動きが一瞬停止した。
リラはその機を逃さなかった。
フルスイングの一撃が、ロボットの頭部を叩き飛ばした。
「あーっ!」
あまりの驚きにアイリスが声を上げる。
先ほどまでの息切れは演技だったようで、すくっと立ち上がったリラはリベラに歩み寄った。
「これで、私も連れて行ってくれるよね?」
リラの意外な戦闘能力を認め、リベラ、アイリス、リラの3人でエイドスへ向かう事に決めた。
⋯
出発の直前、リラは息子のリノをメイリンに託した。
「すまない、メイリン。少しの間、面倒を見てて。あのバカを連れ戻してすぐ戻るから」
「了解! リノは私が責任を持って面倒を見るよ」
メイリンが力強く答えた。
豪華客船は、出発と同時に異様なスピードで加速し、エイドスへと進路を取った。
移動中の船内、リベラは同行する2人に告げた。
「今回は力ずくの対応を行い、早急に問題を解決しましょう。当然、今回の対応については他言無用でお願いいたします」
「いいね。それでいこう」
リラはかつての感覚を思い出したのか、生き生きとした表情で応じた。




