237.訪問者
ある日、エイドスのアヴァロン商事のオフィスに、ひとりの女性が訪れた。
「リベラさんはいらっしゃいますか?」
受付のアンドロイドが丁寧に応対する。
「リベラは現在不在でございます。失礼ですが、どのようなご要件でしょうか?」
「ここへ来るよう、連絡をいただいたものですから」
女性はそれだけを短く答えた。
「⋯承知いたしました。確認いたしますので、少々そちらでお待ちいただけますか」
アンドロイドは彼女を応接用の打ち合わせブースの1つへと案内した。
⋯
リベラの名前が出た時点で、ミネルヴァは連絡を受けた。
そして、ブースで待つ女性を別室から監視カメラ越しに凝視していた。
ミネルヴァはエイドスで新たに雇用した営業担当の女性を呼び、ピアス型の骨伝導イヤホンを装着させた。
外見からは、それが通信機器であるとは悟られないはずだった。
「すみませんが、面着の交渉はお願いします。指示はイヤホンで連絡しますので」
ミネルヴァの少し変わった依頼に、営業の女性は少し怪訝な顔をしたが了承した。
監視カメラに映る訪問者は、至って普通のビジネススーツを着た女性だった。
特に、外見に不審な点は見当たらない。
しかし、ミネルヴァの鋭い観察眼は、女性の動きに微かな違和感を見出していた。
義体化の範囲が、通常に比べてかなり広いかもしれない⋯
それにどのような問題があるかはこの時点ではわからなかった。
ミネルヴァが監視カメラの映像を見続けていると、女性が何かを感じ取ったかのように周囲をキョロキョロと見渡し始めた。
やがて、その視線が監視カメラで止まった。
ミネルヴァは、自分がカメラ越しに観察していることを見透かされたような、得体の知れない感覚を覚えた。
⋯
「お待たせいたしました」
ミネルヴァの指示を受け、営業の女性がブースの扉を開けた。
営業の女性が名刺を差し出すと、訪問者の女性も自分の名刺を差し出した。
そこには、ガブリエラという名が記されていた。
「本日は、どのようなご用件でこちらへお越しいただいたのでしょうか?」
「リベラさんから、エイドスに来ることがあればこちらの会社に寄るように言われまして⋯」
ガブリエラはそう答えながらも、目の前の営業スタッフにはほとんど視線を向けなかった。
代わりに、指示を出している者を知覚しているかのように、監視カメラを凝視し続けていた。
ミネルヴァは骨伝導イヤホンを通じて指示を入れた。
「『エイドスに来られたということは、別の星からわざわざお越しいただいたのでしょうか』と聞いて」
営業の女性がその言葉を口にしようとした、その時。
ガブリエラがそれを手で制し、微笑みを深くした。
「ええ。惑星エデンから来たと言えば、直接お会いになってくださるかしら?」
『エデン』
その名が出た以上、ミネルヴァは覚悟を決めた。
「私がそちらへ出向くのでそのままお待ちいただくよう伝えて。あなたは退席していいわ」
ミネルヴァは指示を出し終えると、自らブースへと向かった。




