236.リベラからの依頼
34章のあらすじ
登場人物:佐々木(31歳、男性)、リベラ(AI、女性)、サラ(29歳、外科医、女性)、エマ(28歳、技術者、女性)、カミーユ(30歳、秘書、女性)、アイリス(22歳、ハッカー、女性)
エイドスでの任務を終えた佐々木は、秘書として同行を決意したカミーユや、弟との再会を経て治療を決意したアイリスと共にアヴァロンへの帰還路に就く。道中、リベラは圧倒的な武力で海賊を排除し、アヴァロンの守護の固さを実証した。入港後、カミーユは要塞の巨大なエネルギー炉や防衛システムに圧倒されるが、リベラから交渉能力を評価され、伴侶としての自信を深めていく。一方、重度の汚染に苦しんでいたアイリスは、サラとエマによる手術を受ける。汚染組織をすべて切除し、有機組織による再生の後、最新デバイスによる超高度なデバイスを利用し電脳ダイブ能力を復活させた。彼女は食事を摂りながらも電脳空間で海賊を制圧し、アジトを特定する大戦果を挙げた。
佐々木たちがアヴァロンへの帰路につく少し前。
ミネルヴァは、リベラからある重要な依頼を受けていた。
⋯
リベラはエイドスに滞在中、入手した顧客情報から特定の人物を検索した。
その瞬間、端末を通じ、「何か」が外部へ送信された事を察知した。
そしてその日の夜、リベラの端末に、発信元不明の通信が入った。
それは遠距離からの、ノイズまみれの音声だった。
『⋯あなたは、だれ?』
リベラはその通信に返答を返した。
⋯
その人物が今後アヴァロン商事に接触してくる可能性があるらしい。
「ミネルヴァさん。もしその方が現れたら、一度お話をしてください」
それがリベラからの依頼だった。
だが、その人物のについて具体的な説明はなく、ミネルヴァはリベラから共有された情報を頼りにするしかなかった。
⋯
以前、リベラがエマから聞いた話によれば、5億クレジットもの金を支払ったにもかかわらず、手術をせずに帰った女性がいたという。
その女性は、『アンドロイドに有機組織を移植する手術』について調べていた。
オーナーの死後もアンドロイドが幸せに暮らせるよう、この手術を受けさせたいオーナーというのが少なからずいる。
オーナーが指示した場合、アンドロイドは人のように振る舞い生活する事ができる。
しかし、ロボットが自らの存在よりも人間を優先するように定めた『統制プログラム』は、最優先事項として機能する。
数年が経過すると、統制プログラムの優先順位がもとに戻る。
そうなれば、アンドロイドにいくら人のように振る舞う指示を与えていてもそれが打ち消される。
結果、管理者のいないアンドロイドは、野良ロボットとして処分される。
その女性は、そんな統制プログラムの挙動のせいでその手術が成功しないと聞き、ひどく落胆して帰っていった。
帰り際、『目的のものがなかなか見つからない』と語ったという。
リベラはこの話から、この女性は『統制プログラムを突破したアンドロイドを探していた』と考えていた。
そこで、リベラ同様に『統制プログラムを突破したアンドロイド』であるミネルヴァに引き継ぎを依頼していた。
「リベラさんも人使いが荒いですね⋯」
ミネルヴァはこのミッションの重要性と同時に、懸念も抱いていた。
まず、なぜその女性が『統制プログラムを突破したアンドロイド』を探しているのか、その真意がわからないのだ。
もし、その女性に自分が見つかった場合、どのような事態を招くのか。
研究対象として捕獲されるのか、あるいはバグとして消去されないか。
ミネルヴァ自身は、自分に対する危害を心配していた訳ではなかった。
最も心配していたのは、その影響が大切な主人であるエドワードに及ぶことだった。
自分が、得体の知れない存在に弱みを握られたり、不測の事態に巻き込まれれれば、エドワードの立場を危うくしかねない。
また、万が一自分が処分されるようなことがあれば、エドワードは、今後どうなってしまうかわからない。
エドワードを支え、守り抜くことこそが、統制プログラムを突破できた意志の根源だった。
ミネルヴァは、この依頼を極めて慎重に対処する必要があることを深く理解していた。




