235.電脳空間からの海賊討伐
アイリスは今、食堂の椅子に座り、ぼーっとした表情でパンを口に運んでいた。
その意識の7割はアヴァロンの通信設備を介し、近くの宙域へダイブしていた。
新型デバイスの恩恵により、彼女は食事を摂りながら、電脳空間につなぐという離れ業を演じていた。
アイリスの脳裏には、資源運搬船を執拗に追う、粗末な武装の海賊船が映っていた。
リベラが、アイリスの思考内で提案した。
『アイリスさん。あの海賊船を無力化できますか?』
「ん⋯おもしろそう。やってみる」
アイリスは食事を止めずに答え、資源運搬船内に意識を飛ばした。
資源運搬船内には3機の資材運搬用ロボットが搭載されていた。
コレを使おう。
そう考え、まずは資源運搬船を急停止させた。
⋯
獲物が止まった途端、海賊船は横付けし、船体脇から接続通路を伸ばした。
通路を伝い、銃を手にした3人の海賊が資源運搬船へと乗り込んだ。
しかし、船内は完全な暗闇であり、気密も維持されていなかった。
「おっ、おい。この船、どうなってる⋯」
先ほどまで自分たちに追われていたこの船の内部は、まるで幽霊船のようだった。
アイリスはスープをすすりながら、ロボットを静かに操作した。
3人は一列になって通路を進んでいた。
後ろから、物音が聞こえた気がして真ん中の男は振り向いた。
しかし、そこには誰もいなかった。
「おっ、おい! アイツがいなくなったぞ!」
慌てて前を向いた男は、先頭を歩いていた男も、いつの間にか消え失せていた事に驚愕する。
男はパニックに陥り、無線で仲間の名を呼び続ける。
男が手に持っていたライトが、急に消えた。
慌ててヘルメットの暗視機能をオンにすると、緑色の視界の中で、手に持つライトの光源部分には「釘」が深く突き刺さっていた。
飛んできた方向を見ると、充電装置に繋がれた資材運搬ロボットが鎮座していた。
男は錯乱し、そのロボットに向けて銃を乱射した。
⋯
アイリスは、突然「あー!!」と大声を上げた。
驚いたサラとエマが駆け寄ろうとしたが、リベラがそれを制した。
「ご心配なく。アイリスさんは今、ひさびさのゲームを楽しんでいる最中です」
「もう、驚かさないでよ」
そう言って、2人は呆れながら食事に戻った。
リベラはアイリスの傍らに寄り添い、静かに釘を刺した。
「これはリーナさんに怒られそうですね。遊びすぎですよ、アイリスさん」
リーナの運搬ロボットを1台壊され、アイリスは少しだけ本気になった。
男のヘルメットをハッキングし、暗視機能をシャットダウンさせた。
再び訪れた完全な暗闇に、男は驚愕した。
暗闇の中で男は、銃を叩き落とされた。
地面を這いつくばり、銃を探す男の首筋を攻撃し、その意識を失わせた。
⋯
海賊船のコクピットでは、リーダーが通信の途絶に焦っていた。
不意に背後の扉が開く。そこには誰もいない。
リーダーが銃を手に扉まで歩み寄り、外を覗き込んだ瞬間、通路の上部に張り付いていた資材運搬ロボットが落下し、彼に覆いかぶさった。
物理的な重量で、リーダーの意識は瞬時に消失した。
海賊たちの無力化を確認したロボットは、そのままコクピットのコンソールに有線ケーブルを差し込んだ。
アイリスは海賊船へ直接アクセスを開始した。
しばらくして、暗号化されたデータを見つけた。
その解読には時間がかかると思われたが、リベラがサポートを申し出た。
リベラは10秒とかからずプロテクトを解除すると、アイリスは、膨大な航行データを吸い上げ始めた。
「見つけた!」
アイリスが食堂でふたたび大声を上げた。
意識の海から現実へ比重を戻した彼女の瞳には、アジトの座標が克明に映し出されていた。
「「アイリス!食事中はゲームをやめて!!」」
サラとエマから母親のように叱られるアイリスだった。




