234.ダダもれの情報
ここまでの34章のあらすじ
登場人物:佐々木(31歳、男性)、リベラ(AI、女性)、サラ(29歳、外科医、女性)、エマ(28歳、技術者、女性)、カミーユ(30歳、秘書、女性)、アイリス(22歳、ハッカー、女性)、ガルド(53歳、造船技師、男性)、アテネ(32歳、建築師、女性)
リベラとカミーユは要塞最深部で5テラワットの巨大エネルギー炉を見学。カミーユは驚異的な技術力に圧倒されるが、リベラから交渉能力と美貌を高く評価され、佐々木の伴侶としての自信を深める。その後、食堂で豪華客船を「ミニアヴァロン」へと改造中のガルド夫妻と合流し、家族のような温かさに触れる。一方、重度の汚染に苦しんでいたアイリスは、サラとエマによる培養タンクを用いた組織再生手術を受け、生身の体へと蘇生。最新の接続デバイスを埋め込み、無線での超高度なダイブ能力を獲得する。過去の呪縛を克服し、情報の海へと回帰した彼女は、新たな希望と共に仲間との絆を強めていくのだった。
アイリスが最初に接続したのは、アヴァロン各所に設置されたカメラだった。
無数に設置された視点から、今、船内で何が起こっているのかが鮮明に流れ込んでくる。
倉庫で資源を保管するドローンの映像、到着したばかりの運搬船から積み下ろしを待つ物資、漆黒の宇宙空間を捉える監視カメラ。
さらに船内の通路という通路、そして食堂にまで彼女の意識は及んだ。
食堂のカメラには、休憩を取っている2人の女性が映っていた。
アイリスが意識を向けると、データベースから「クレア」と「ノア」という名前が表示される。
まだ会ったことのない2人だったが、知りたいと思うだけで、彼女たちが佐々木のパートナーであることや、ノアが今、佐々木の子どもを身籠っていることが瞬時に判明した。
『アイリスさん!』
不意に、思考の中直接呼び止められたような感覚があった。
意識を集中させると、それがリベラの声だとわかった。
『アヴァロンの方々の個人情報にアクセスしていただく事は構いません。ですが、このソフトをインストールしておいてください』
促されるまま、アイリスはそのプログラムを自身にインストールした。
アイリスはさらに意識を滑らせ、別の場所で佐々木とセレネを見つけた。
セレネの肩を揉む佐々木と、安心しきった様子で楽しげに語らうセレネ。
2人の事をもっと知りたいと願った瞬間、映像は過去へと巻き戻り始めた。
アヴァロンに来た日まで戻ったが、2人はすでに恋人のような距離感だった。
さらに以前の情報を求めると、唐突に視界が切り替わった。
目の前にいるのは、まだ出会ったばかりの佐々木とセレネだった。
少し考え、それがリベラの視点による記録映像であることに気がついた。
そこから現在に至るまでの2人を一気に再生したアイリスは、2人の関係性に心を打たれた。
(ステキな関係だな⋯)
そう思った瞬間、『そうですね』という相槌が聞こえた。
再び集中すると、リベラがアイリスの意識を見守っていた事に気がついた。
『アヴァロンの情報接続はいかがですか?』
リベラに問われ、アイリスは「最高」と答えた。
生身を離れた意識はどこまでも拡張され、全知全能に近い万能感に満たされている。
カメラ映像以外にも、アヴァロンが持つ様々な情報を把握することができた。
『アイリスさん。意識レベルを下げてみてください』
リベラの指示に従い、設定を切り替えてみる。
少しずつ意識が自分の体へと戻っていく感覚があり、やがて生身の五感が覚醒した。
しかし、アヴァロンとの接続は維持されたままだった。
アイリスはシートから起き上がり、驚きに目を見開いてリベラを見た。
「これすごい! 今もネットに繋がったままなの⋯」
これまでの旧式デバイスでは、接続中は完全に意識を失い、接続を解除するまで身動き一つ取れなかった。
しかし、交換した新型デバイスとリベラの提供した端末を組み合わせることで、覚醒した状態での同時接続が可能になったのだ。
意識が戻った瞬間、アイリスは肉体の変化に気がついた。
ぐぅと切実な音を立てるお腹。
長らく培養液の中にいた彼女は、強烈な空腹を覚えた。
「お腹へった⋯」
情けない声を出すアイリスを連れ、サラとエマ、そしてリベラは食堂へ向かった。
食堂には、先ほどカメラ映像で見たクレアとノアがまだ残っていた。
「ああ、リベラ。その子が新しい仲間?」
ノアが自分の方を見ながら語りかけてくる。
「うん■■、アイリス。よろしく」
アイリスは、自分の言葉が不自然に途切れたことに違和感を覚えた。
「よろしく、アイリス。私はノア、でこっちがクレアよ」
「うん、ノアとクレア。よろしく」
今度は最後まで発音できた。
戸惑うアイリスの頭の中に、再びリベラの声が響いた。
『先ほどインストールしていただいたソフトは、ネットで取得した非公開の個人情報を、許可なく口に出せないようにするものです。催眠術のように、話そうとすると制限がかかります。相手が公開を許可している情報であれば、今のように話せます』
(なるほど)と、アイリスは脳内で回答した。
『情報の取得は許可しますが、保安上の理由から、公開しないようにしてください』
「わかった」
リベラの方を見て声に出した直後、アイリスは「あっ!」と叫んだ。
「敵性勢力がアヴァロンに近づいていますね」
リベラもまた、アイリスがネットワーク経由で察知したのと同時に、その危機を把握していた。




