233.懐かしきネットワークへ
培養タンクを出たアイリスは、すぐに新しいデバイスの手術を実施してほしいと望んだ。
サラはアイリスのその強い主張を尊重し、そのまま手術を実施することに決めた。
接続デバイスの手術は、通常、脳にインプラントを埋め込むことから始まる。
そこを起点として、脊椎に沿わせるように極細のケーブルを慎重に引き込み、首筋の接続デバイス付近まで通していくという精密な工程が必要となる。
アイリスの接続デバイス、ケーブルやインプラントはどれも汚染されていたため、サラは今回の手術の際にそれらをすべて除去していた。
そのため、今回は再びすべての設定をやり直す必要があった。
手術はリベラの力も借り、ナノマシンを用いた処置が進められた。
アイリスに新たに埋め込むデバイスやインプラントは、これまで使用していたものとは段違いの、非常に高性能なものへと取り替えられた。
手術の翌日、アイリスは激しい頭痛と首の痛みに悩まされていたが、さらに翌日には状況はかなり改善された。
「もう、ネットに繋いでもいい?」
アイリスは待ちきれない様子で質問したが、サラは設定が安定するまで我慢するようにとなだめた。
今のタイミングで接続すると動作が不安定で、脳や脊髄に必要以上の負荷がかかり、最悪の場合は二度と接続できなくなる可能性があるという説明を受け、アイリスは静かに時を待つことにした。
それから1週間後、傷口も完全に癒えたタイミングで、サラはようやくアイリスに接続の許可を出した。
許可が出た瞬間、アイリスは喜び勇んで近くのリクライニングシートに駆け寄った。
シートに横たわり、接続ケーブルを探そうとした所で、リベラがそっと近寄ってきた。
「アイリスさん、こちらの機械を接続デバイスに付けてみてください」
手渡されたのは、見たこともないほど小さなチップのようなデバイスだった。
アイリスがそれを首の後ろの端子に差し込むと、カチリという小さな手応えと共に、脳が外部ネットワークの存在を敏感に検知した。
(えっ⋯? まだ何も繋いでないのに⋯!)
いつでも情報の海へ飛び込めるという独特の予感が、産毛を逆立てるような感覚となってアイリスを包んだ。
シートに深く身を預け、彼女が視界の端にシステム画面を呼び出すと、即座に鮮やかなログ画面が脳内に浮かび上がった。
接続した機器は、アヴァロン内であれば無線での接続が可能になっていたのだ。
さらに、接続の「深度」を自在に変えられる機能まで備わっていた。
これまでのように意識のすべてを投げ出す接続だけでなく、現実の感覚を保ったまま情報を処理する「片手間の接続」さえも可能にしていた。
アイリスはその万能感に震えた。
試しに自分のロボットを呼び寄せ、ロボットを動かしながら、同時に脳内でネットの情報を処理してみた。
安全なシートの上で、アイリスはついに深い階層へのダイブを決行した。
意識の深度を最大まで沈めると、目の前の景色が情報の奔流へと切り替わり、彼女は懐かしくも広大な、ネットの深い海へと久々に潜っていった。




