230.伴侶の条件
カミーユは目の前にある、鈍い光を放つ巨大なエネルギー炉を見上げ、その威容に気圧されながらもリベラに問いかけた。
「これって⋯出力はどれくらいなんですか?」
リベラは計器の数値を冷静に見つめ、さらりと答えた。
「定格出力は5テラワット。フルで稼働させれば、1時間で18ペタジュールの熱量を供給可能です」
「⋯はい?」
一瞬、頭の中の計算式が停止した。カミーユは自分の耳を疑い、数秒の沈黙のあと、裏返った声で計算を口にする。
「5テラ⋯。それってつまり、1時間で、エイドスの1日分の電力がまかなえる規模じゃないですか!この小さな炉が一基で叩き出せるというんですか?」
「ええ。アヴァロンのレーザー砲の連続放射に、大型スラスター、さらにシールドバリアを稼働させるには、この出力が絶対条件なのです」
カミーユは目の前の機械を、畏怖の念を込めて凝視した。
「これを⋯セレネさんが設計したんですか? 理論上の壁をすべて越えて、このサイズに収めるなんて。間違いなく天才ですね」
カミーユは、足元から伝わってくる微かな振動が、単なる機械の震えではない事を理解した。
「この炉と同じものをエイドスのステーションに付けるんですか?」
カミーユの質問に、リベラは首を横に振った。
「エイドスの宇宙ステーションで使うにはオーバースペックすぎます。アヴァロン構築時に作成した簡易エネルギー炉というのがあります。そちらを持っていく予定です」
「ちなみに、そのエネルギー炉の出力はどれくらいなんですか?」
「この100分の1。定格で50ギガワット、といったところでしょうか」
「なるほど…。たしかにそれぐらいで十分でしょうね」
カミーユは納得したように頷いた。
⋯
帰りのエレベーターの扉が閉まると、カミーユは少し卑屈な声でなげいた。
「佐々木さんの周りには、すばらしい人が多いですね。セレネさんは天才で、メイリンさんもリリィさんも、社交的な上にすごく美人で。私なんか、きっとお情けで付き合ってくれてるんだろうなぁ⋯」
その言葉に、リベラは静かに訂正を入れた。
「リリィさんはハーレムのメンバーではありませんよ」
「えっそうなんですか?」
「佐々木様が最初に知り合ったのはリリィさんでしたが、結局そういった関係にはなりませんでした。佐々木様は非常に奥手ですから、相手の方がグイグイと踏み込んでこない限り、なかなか進展しないのです」
思いがけない情報に、カミーユの表情に少しだけ生気が戻った。
エレベーターが静かに上昇を続ける中、リベラは落ち着いた声で話を続けた。
「カミーユさんは十分に優秀です。オリーヴさんも、あなたの聡明さには驚かれていましたよ。私は、佐々木様が非常に平凡な方なので、伴侶にはにはそれを補える方が適任だと考えています。その点において、カミーユさんには今後、交渉の際、佐々木様をサポートする役割を期待しています」
リベラの「本音」を聞き、カミーユはさらに元気づけられた。
自分の居場所を公式に認められた喜びが、胸の中に広がっていく。
「でも、佐々木さんって、私みたいなのを本当に好きになってくれるのかなぁ⋯」
しかし、再び不安が頭をもたげる。
「失礼ながら、カミーユさん、あなたは非常に整ったお顔をされていますよ。実は以前、佐々木様に相談したことがあるのです。秘書としてあなたを置くのであれば、衣装やお化粧をもっとしっかりさせてはどうか、と。ですが、佐々木様からはハッキリと拒否されました」
「ムダだからですか?」
「その逆です。カミーユさんが美人なのは、他人に知られたくないそうです。他人に知られ、誰かに取られたくない。佐々木様があれほど強い『独占欲』を口にされたのは、カミーユさんがはじめてです」
リベラの正直で具体的な感想は、カミーユの心にすとんと落ちた。
「なるほど。佐々木さんがそんな事を⋯えへへ。リベラさん、ありがとうございます」
エレベーターが目的の階に到着し、扉が開いた。
カミーユは先ほどまでとは違い、晴れやかな表情で笑い、みなが待つ食堂へと戻っていった。




