227.過ぎた力
「スゴかったですね⋯」
カミーユはサングラスを外し、しばらくモニターの残像を追うように立ち尽くしていた。
その瞳には、恐怖を通り越した純粋な感動が宿っている。
しかし、彼女はふと何かを考え込むように視線を落とすと、ぽつりと呟いた。
「でも、やっぱり⋯この機能はエイドスのステーションには必要ありませんね」
その言葉に、真っ先に反応したのはリリィだった。
「何ですって?」
リリィはキッとカミーユを睨みつけ、食ってかかるように距離を詰める。
「なんでレーザー砲がいらないんですか? 絶対必要でしょう!」
「リリィさん、落ち着いてください。不要と判断したのは私です」
リベラが間に割って入り、冷徹なトーンで制止する。
だが、その隣でベガを抱いたままのオリーヴが、面白そうに目を細めた。
「リベラ、せっかくだからその娘に説明させたらどうだい?」
技術の権威は、カミーユの言葉の裏にある「理由」を既に見抜いているようだった。
自分より年下のリリィの剣幕に、小心者のカミーユは思わず肩を竦めて怯える。
しかし、彼女は深呼吸を一つすると、はっきりと語り始めた。
「エイドスは辺境の惑星ですけど、大統領制を敷く自治領なんです。アヴァロン商事の展開を許可したのは、あくまで『商社』だからです。そんな商社が、こんな敵を滅ぼせる武力を持っているとわかったら、自分たちに危害が加わる可能性を真っ先に考えます。そうなれば、ステーションの制作中に邪魔されたり、中止させられたり、最悪攻め込まれるかもしれません」
カミーユは、メインスクリーンに映るアヴァロンの静かな威容を見つめた。
「せっかく作った宇宙ステーションが、無用な武力のせいで使えなくなるというのは、それこそ本末転倒じゃないですか。⋯だから、警備は『警備会社』という建て付けで、外部にアウトソーシングする形にすれば、政治的には丸く収まる気がするんです」
そこまで一気にまくしたてると、カミーユは少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「それに、アヴァロンには特攻船っていう『裏ワザ』もありますしね。いざとなれば何とかなっちゃいますし」
オリーヴがニヤリと口角を上げる。
カミーユはさらに言葉を継いだ。
「独立する国が持つ『過ぎた力』は抑止力としておく分には構いません。でも、他国に近づきすぎると、彼らは怯えてしまいます。商売をするなら、まずは安心を与えないと」
しんと静まり返るコントロールルーム。
リリィは、カミーユの言葉を咀嚼するように何度も頷き、やがてパッと顔を輝かせた。
「なるほど! 確かに、追い出されちゃったらレーザーを撃てる意味すらないもんね!」
リリィは先ほどの勢いはどこへやら、素直な表情でカミーユに向き直った。
「私、自分の作ったものが一番だって思いたくて、周りが見えてなかったみたい。ごめんなさい」
その屈託のない謝罪に、カミーユは気恥ずかしそうに頬をかいた。
若さゆえの直情さと、間違いを認められる素直さ。
リリィのその長所が、重苦しくなりかけた空気を一気に塗り替えていった。




