226.ロジスティクスとレーザー
「へー、すげーな! ベガ、見てみろよアレ!」
メイリンが窓にへばりついて声をあげると、隣に並んだベガも同じように瞳を輝かせ、はしゃいでいた。
「すげー!」
全長80キロメートルという、天体規模の質量を持つアヴァロン。
その内部は気の遠くなるような数のセクターに細分化されている。
この展望エリアから見下ろしているのは、広大な要塞内にある大型倉庫の1つだった。
その1つでさえ、視界の端から端までを鋼のラックが埋め尽くす圧倒的な広さを誇っていた。
「ぶつからない⋯はやい。すごい!」
アイリスはベガの隣に並び、ドローンの動きを見つめながら、その光景に純粋な感動の声を漏らした。
「リベラさん、この広さ、すごいですね」
カミーユが感嘆の声を漏らすと、傍らに立つリベラは冷静に視線を返した。
「ですが、まだまだ問題は山積みです」
「えっ、そうなんですか?」
意外な答えにカミーユが聞き返すと、リベラはモニターの数値を指し示した。
「はい。ギルバートさんの参加で需要と供給のバランスは取れましたが、まだまだ、需要が少なすぎます」
「なるほど、確かに搬入に比べて搬出が少ない気がしますね」
積み上げられた膨大な在庫を見ながら、カミーユは納得したように頷いた。
「エイドスのステーションがこの問題を画期的に解決してくれる事を期待したいですね」
リベラが展望を語ると、それまで黙って聞いていたメイリンが、カミーユの顔を覗き込んだ。
「でも、カミーユちゃんはこんな所の紹介でホントに良かったの?アヴァロンには、スゴいアミューズメントがいろいろあるのに」
「はい。私、超インドア派なので、そういうのは見る方が楽しいんですよね。でも、この巨大倉庫はいいですね。いっさいムダのない合理的な機能美は心おどります」
「まぁ、気に入ってくれたなら何よりだよ」
メイリンたちは楽しげに笑いながら、次の場所へと移動した。
…
コントロールルームへ入ると、先ほど食堂で見かけたオリーヴとリリィが、話し合っていた。
「あっ、みんないらっしゃい!」
リリィが明るい声で挨拶する。
逆に、隣に座るオリーヴは、気難しそうな表情で複雑な数値を追い続けていた。
メイリンが2人の紹介を始めようとした、その時、けたたましいアラームが鳴り響いた。
「何? 何があったの!?」
メイリンが周囲を見渡して騒ぐ中、リベラが即座に端末を操作し、メインスクリーンを切り替えた。
「どうやら、アヴァロンに戻る資源運搬船が何者かに追われているようです」
スクリーンに映し出されたのは、執拗な砲撃を受けながら逃げる運搬船と、それを嘲笑うように追い回す宇宙海賊船だった。
一方的に攻める海賊たちに、コントロールルームのメンバーは苛立ちを隠せなかった。
「最終警告を!」
リベラの指示に従い、管理アンドロイドの一体が冷徹な声で通信を繋いだ。
「所属不明の船に警告します。我々の船に対する攻撃を直ちに止め、この宙域を離脱しなさい。さもなければ攻撃します」
「ふん! できるもんならやってみな」
なめた返答が返ってくる。
オリーヴの額に青スジが出た。
「やってみな、と言ったね。…いい度胸だ」
オリーヴが冷たく言い放つのを見て、カミーユが震える声でリベラに尋ねた。
「あの、⋯特攻船でも出すんですか?」
「いいえ。おそらく、アヴァロンの攻撃機能が見れると思いますよ」
リベラが小声でそう言ったタイミングで、オリーヴの指示を受けたアンドロイドによって、全員に真っ黒なサングラスが配られ始めた。
「まつくらー!」
渡された大きなサングラスをかけて、ベガがはしゃぐ。
「カウントダウンはじめます」
別のアンドロイドが告げると、キュウーンという低い振動が足元から伝わってきた。
アヴァロンが、その莫大なエネルギーを一点に収束させていく。
「3、2、1⋯」
一瞬の静寂。
直後、コントロールルームから離れた場所から、純白の光の帯が一直線に伸びていった。
「ひゃあっ!」
カミーユが驚いて声をあげる。
サラたちは耳を押さえ、身体を揺さぶるエネルギーの咆哮に必死に耐えていた。
数秒後、光の帯は消え、再び静寂が訪れた。
「今のが、オリーヴさんが完成させた攻撃機能のレーザー砲です」
リベラが説明をすると、ベガがてとてととオリーヴに駆け寄った。
「ばぁば、スゴい!」
パチパチと拍手をして褒めちぎるベガに、オリーヴの気難しそうな表情が一気に緩んだ。
「そうかい、そうかい。ベガちゃんは分かってくれるかい」
オリーヴは顔をほころばせ、愛おしそうにベガをひょいと抱き上げた。
その時、コントロールルームに佐々木とセレネから緊急連絡が入った。
『リベラ、今のは!? 何かあった?』
「いいえ、運搬船が襲撃されていましたので、みなさまに、レーザー砲をお見せしておりました」
リベラが淡々と答えると、通信越しに鋭い声が響く。
『もう!脅かさないでよ』
セレネの怒った声の後、バチンと通信が切れた。




