225.待っていた笑顔
漆黒の宇宙空間に、その巨大な球体が姿を現した。
「あれが、アヴァロンです」
リベラの言葉に、カミーユとアイリスは弾かれたように窓へ駆け寄り、文字通りへばりついた。
近づくにつれ、その球体はどんどん大きくなっていった。
近くに比べるものがない宇宙空間では、そのサイズを計り知るのは難しい。
視界のすべてを覆い尽くしていくその威容。
想像を絶する巨大さに、2人はあんぐりと口を開けたままだった。
「スゴイデカい」
アイリスがつぶやくと、カミーユも「ウン⋯」とその意見に同意した。
球体の一部がゆっくりと開き、スターゲイザーを迎え入れた。
宇宙港へ入港し、気密エリアのハッチが開くと、そこには懐かしい顔ぶれが待っていた。
「とうちーゃん、おかえりー!」
元気いっぱいに叫ぶメイリン。
その腕には幼いメイシンが抱かれ、隣ではベガが柔らかく微笑んでいる。
「ただいま。ベガ、メイリン」
佐々木は駆け寄ってきたベガをひょいと抱き上げると、メイリンにも優しく語りかけた。
その光景を後ろから見ていたカミーユは、初めて見る佐々木の「父親としての顔」に、驚きで少し身体を固くした。
そんなカミーユの視線に、メイリンが目ざとく気づくる。
「ん? そっちの人はもしかして⋯」
メイリンがニヤリと笑うと、背後に控えていたリベラが説明した。
「はい。新しいハーレムメンバーのカミーユさんです」
「カ、カミーユと申します! よろしくお願いします!」
あまりの緊張に、深々と頭をさげるカミーユ。
その様子を見て、メイリンは楽しげに声をあげた。
「あはは、なかなか可愛い子を捕まえてきたね。私はメイリン。よろしくね」
向けられた優しい言葉に、カミーユの肩の力が少しだけ抜けた。
「積もる話はとりあえず、食堂でしよう」
⋯
佐々木がアヴァロンを離れてから、すでに3ヶ月の月日が流れていた。
「今回は結構長かったね」
メイリンがしみじみと呟くと、佐々木は苦笑いしながら頷いた。
「うん。ちょっと色々あって、なかなか帰れなくなっちゃったんだ」
「そうね。なんとなくは通信とかで聞いてたけど⋯⋯サラちゃんもお疲れさま」
メイリンが労うようにサラに視線を向けると、サラはすまなそうな顔をした。
「ごめんなさい。私のせいで⋯」
「いやいや、サラちゃんは悪くないでしょ」
やさしく訂正するメイリンと、その意見にうなずく佐々木。
やさしい空気が食堂を満たしていく中、自動ドアが開き、1人の女性が姿を現した。
「佐々木さん。おそい!」
入ってくるなり、セレネは怒っていた。
少しだけお腹がふっくらと前に出てきた彼女は、佐々木の帰りが遅いことをずっと心配していたのだ。
「ごめんね。遅くなって」
佐々木が申し訳なさそうに謝るが、セレネは構わず彼の腕を取った。
「あ、あの⋯」
カミーユが思わず話しかけようとするが、セレネは鋭く「あとでね」とだけ言い残し、そのまま佐々木を食堂から連れ去ってしまった。
呆気に取られるカミーユに、メイリンが苦笑しながら説明してくれる。
「さっきのは、ハーレムメンバーのセレネさん。アヴァロンのルールで、佐々木が遠征から帰ってくると、待っていたメンバーを優先的に相手してもらうことにしてるんだ」
メイリンは指を折りながら続けた。
「次がエマちゃんで、その次がノアちゃん。その次がクレアさんで、最後に私。だからカミーユさんは5日後かな。まぁ、ずっと離れてたんだもんね。そこガマンしてね」
包み込むように優しく話すメイリンに、カミーユは自然と好感を抱いた。
次に食堂に現れたのはエマだった。
「あっ、カミーユさん久しぶりですね」
エマはほがらかに挨拶すると、すぐにキョロキョロと周りを見た。
「アイリスちゃんは?」
声を掛けられ、サラの背後に隠れていたアイリスがおずおずと顔を出した。
「私はエマ。サラと一緒にあなたの手術をサポートするわ。一緒に頑張りましょうね」
エマの真摯な眼差しに、アイリスは少しずつ心を解いていく。
「⋯お願いします」と、小さな声で挨拶を返した。
「さっそくだけど、エマ。準備状況を教えてもらえる?」
「ええ、行きましょう」
2人は専門的な打ち合わせをしながら、食堂を後にした。
入れ替わるように、リリィとオリーヴが姿を現した。
2人はどうやら研究の合間の休憩に来たようだ。
「ん? この人たちは?」
リリィが不思議そうに聞くと、リベラがカミーユとアイリスを紹介した。
「私はリリィ。年も近いし、仲良くしましょう」
リリィが屈託なく手を差し出すと、アイリスは人見知りを発動させながらも、その手を握りかえした。
「せっかくだから、私がアヴァロンの中を案内するよ!」
メイリンが元気よく案内役を買って出た。




