222.姉弟のキズナ
スターゲイザーがセレノグラフィアの宇宙港へ滑り込むと、そこには見慣れた姿があった。
アヴァロン商事のミラが笑顔で佐々木たちを迎えてくれた。
「お待ちしておりました、佐々木さん。皆さんもご無事で何よりです」
佐々木たちを専用車に乗せ、ミラはさっそく説明をはじめた。
「今後、セレノグラフィアを拠点にするメンバーも増えますし、拠点となる家を確保しました。まずはそちらへご案内します」
到着したのは、4階建ての堅牢なマンション風の建物だった。
中に入ると壁紙すら剥がされた無機質な空間が広がっている。
「まだリフォーム前の段階ですが、ココの壁をぶち抜いて大きなラウンジを作る予定です。ハーレムメンバーの皆さんがいつ泊まっても良いように整えますね。今後はあの豪華客船で大勢でお越し下さい!」
ミラは自信たっぷりに続けた。
「細かな内装については、あーねぇ、じゃなかった。アテネさんにお願いする予定です。とりあえず、サラさんがすぐに生活できるよう最低限の部屋は用意しました」
手回しの良さに、サラは深く感謝した。
「弟たちは⋯?」
アイリスがずっと気にかけていた問いを口にすると、ミラは窓の外、向かいに立つ大きな病院を指差した。
「あそこの病院にいます。会いに行きましょう」
アイリスがうんうんとうなずいて先行する。
病院へ向かう道すがら、ミラが補足する。
「ちなみに、この病院も買収は済んでいます。サラさんにはココで働いてもらいます。必要な設備があれば何でも仰ってください。アヴァロン商事が責任を持って調達します」
「ねーちゃん!」
病院のロビーに、元気な声が響いた。
アイリスの弟が駆け寄ってくる。
「カイト!」
アイリスはその小さな体を力いっぱい抱きしめた。
「ねーちゃんがいなくても、大丈夫だった?」
心配そうに覗き込むアイリスに、カイトは少し頬を膨らませてそっぽを向いた。
「いつまでも子供扱いするなよな。これくらい平気だよ」
ませた口調に、見守る顔が自然とほころぶ。
その傍らで、ミラが佐々木に小声で告げた。
「エマさんから、アイリスさんの手術準備が整ったと連絡が入っています」
⋯
その日の夕食時。
リベラが穏やかな口調で、アイリスとサラに向き合った。
「エマさんから連絡があり、アイリスさんの手術準備が整いました」
アイリスの首の後ろの接続デバイスは、サビたように変色している。
かつて、バルガスの手下に捕まった際、二度とデバイスが使えないよう、特殊な汚染物質を体内に流し込まれ細工をされた。
そのため、単にデバイスを新品に交換しても、蓄積された汚染物質がすぐに新しいデバイスを侵食し、破壊してしまう。
「ですが、手術を受ければ、以前のようにいつでもネットへ接続できるようになります」
手術は設備が整った『アヴァロン』で実施するため、2人には同行を提案した。
サラは拠点をミラに任せ、アイリスと共にアヴァロンへ行くことを決意した。
⋯
翌朝。
アイリスは再び病院のカイトのもとを訪れた。
「ねーちゃん、手術を受ける必要があるんだ」
アイリスは首の後ろにある、無惨に変色したデバイスを見せた。
カイトは一瞬言葉を失ったが、すぐに力強く頷いた。
「わかった。⋯頑張ってこいよ、ねーちゃん!」
姉を励ます弟の姿に、アイリスは静かに勇気をもらった。
⋯
宇宙港には、カイトとミラが見送りに来ていた。
タラップを上がる直前、強がっていたカイトの瞳から、我慢しきれず大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ねーちゃん!早く、早く帰ってきてよ!」
「うん。わかった。もうちょっとだけ待っててね」
アイリスは最高の笑顔を残し、スターゲイザーへと乗り込んだ。
スターゲイザーは、アヴァロンを目指して、静かに浮上を開始した。




