221.独占欲と隠れ美人
スターゲイザーは、セレノグラフィアへと向かって加速していた。
船内が安定航行に入った頃、カミーユはラウンジのソファでくつろいでいたサラの隣に腰を下ろした。
「サラさんは、佐々木さんと離れるのは寂しくないんですか?」
タブレットで読書をしていたサラは、手を止めてキョトンとした。
「えっ、どうして?」
「だって、サラさんって佐々木さんのハーレムメンバーさんなんですよね? 私、今、佐々木さんと離されるのは、とてもつらいです⋯」
カミーユの切実な訴えに、サラは尊いものを見るような顔で微笑んだ。
「へー。カミーユさんって、そんなに佐々木さんの事を好きになったのね」
納得できない様子のカミーユに、サラは観念したように肩をすくめた。
「ああ、ごめん。実は私、正確にはハーレムメンバーじゃないの」
「えっ? ということは、その⋯『カラダだけの関係』ということですか?」
「ちがう!」
サラは顔を赤くして大声を上げた。
「⋯実は私、これまで男性とちゃんとお付き合いしたことがないのよ!」
「ええっ! ⋯ああ、そういうことなんですね。なるほど、私もそれほど男性とお付き合いをしてきたわけではないですが⋯」
カミーユが驚きつつも納得すると、サラは少しトーンを落として続けた。
「リベラさんのお陰で、何度か佐々木さんと2人きりにしてもらったんだけどね。佐々木さんは、無理に迫ってくる感じじゃないじゃない。⋯むしろ、カミーユさんがどうやってそういう関係になれたのかが知りたいわ」
そう言われ、カミーユは佐々木とのこれまでの流れを思い出し、耳まで真っ赤になった。
サラはその表情を見て、すべてを察した。
「ああ、やっぱりね。あなたの方から迫ったのね⋯。私も、もうちょっと度胸があったら状況は変わってたかもしれないわね」
「でも、あの50億クレジットを払って釈放してもらった時は、グッと来ませんでした?」
「うん。釈放されてすぐは佐々木さんに抱きついて、安心感で泣いてたんだけど⋯。勾留時間が長すぎて、すごく疲れ果ててたのよ。リベラさんがくれた薬を飲んで、そのまま一人で寝ちゃったから。⋯でも、私も佐々木さんのことは好きよ。話を聞いてもらって、すごく安心できたし」
「そうですよね。私もあんな風に、お金も払ってないのに『うんうん』って聞いてくれる男性にはじめて会いましたよ」
2人の間に共感の空気が流れた。
その時、サラがカミーユの顔をじっと覗き込んだ。
「ねえ、カミーユさん。ちょっとメガネを外して、こっち向いてくれない?」
「こうですか?」
言われるがままメガネを外し、サラの方を向いたカミーユを、サラはマジマジと見つめた。
「あなた。メガネでよくわからなかったけど、すごく美人ね⋯」
「そうですか? そんなこと、今まで誰からも言われたことないですよ」
「ちょっと私にいじらせてくれない?」
サラは楽しそうに自前の化粧道具を持ってくると、カミーユの顔を整えはじめた。
⋯
佐々木の部屋の扉が控えめにノックされた。
「佐々木さん。ちょっといいですか?」
聞き慣れた女性の声に、パジャマ姿の佐々木が扉を開けた。
「はい⋯って、どちらさま?」
「私です。カミーユです」
目の前に立つ別人のような美女に、佐々木の心臓が跳ね上がった。
「な、中へ入れてはくれないんですか?」
「ど、どうぞ⋯」
腰が引けながらも、佐々木はカミーユを招き入れた。
サラに施された完璧なメイク。
そしてリベラが用意したという衣装は、極端に布地面積の少ない過激なものだった。
「サラさんにお化粧をしてもらって、この服はリベラさんに用意してもらいました。ランキング7位とかって教えてもらいました。ちょっと足元がスースーします」
恥ずかしそうに、けれど確信犯的に微笑むカミーユ。
佐々木の目はその美脚に釘付けになっていた。
⋯
深夜、ベッドの中で裸になった2人は、肌を寄せ合いながら話をしていた。
「佐々木さんは、こんなお洋服がお好きなんですね。なるほど。これからは頑張ってこういうのを着るようにしようかなぁ」
カミーユが少し悪戯っぽく言うと、佐々木は困ったように、けれど真剣な声で答えた。
「あっ、⋯あの。できたら、いつもの格好がいいかな」
「えっ、でもお好きなんですよね?」
「う、うん。でも、カミーユさんを他の人にジロジロ見られたくないっていうか⋯」
男性から初めて向けられた純粋な独占欲。
カミーユは満面の笑みで、佐々木に強く抱きついた。
⋯
翌朝。
佐々木とカミーユが並んでラウンジに入ってきた。
カミーユは昨日までと同じ地味な服にメガネ姿だった。
リベラが、佐々木に問いかける。
「佐々木様、昨日のカミーユさんの服はお気に召しませんでしたか?」
言葉に詰まる佐々木を見ながらカミーユはニコニコしていた。
カミーユは、横にいたサラにだけ小声で耳打ちした。
「ああいう格好は二人っきりの時だけにしてほしい、って言われちゃいました」
サラはなるほどと納得して微笑んだ。




