220.すれ違いの気持ち
朝食の席で、ギルバートが話しだした。
「カミーユ、少し手伝ってくれ。ミネルヴァへの引き継ぎ作業、お前が手伝ってくれると助かるんだ」
ギルバートに頼まれ、カミーユは戸惑いながらも頷いた。
それが今の自分にできる唯一の役割に思えたからだが、同時に彼女の胸には暗い予感が立ち込めていた。
自分はこのまま、エイドスに残されるんじゃないだろうか。
佐々木が自分を必要としてくれている確信が持てないまま、カミーユはギルバートのサポートをこなした。
その日の夕食の席で、サラが、少し疲れた表情で切り出した。
「佐々木さん、リベラさん。家も解約して、家具も処分したわ。それにこの星の手続きは全部終わってきたわ。これで本格的にセレノグラフィアへ移動できるわ」
その傍らでは、ギルバートとミネルヴァがカミーユの手際を絶賛していた。
「いやあ、助かったよカミーユ。お前の処理能力はやはり化け物だな。おかげで引き継ぎがかなり進んだよ。俺をずっと手伝ってくれないか?」
「はい。私の作業効率も飛躍的に向上いたしました。心より感謝いたします」
ギルバートの冗談めかした「残留要請」に、カミーユの表情はさらに強張った。
彼女の心は、感謝の言葉では満たされなかった。
やっと見つけた、自分を「一人の女性」として、そして「安心」を与えてくれる人として見てくれる佐々木のそばにいたい。
だが、佐々木は一向に「ついてきてくれ」と明言してくれない。
やっぱり自分は、佐々木に必要とされていないのだろうか?
このままギルバートたちの手伝いを続け、佐々木たちが旅立つ背中を見送ることになるのではないか。
そんなモヤモヤとした絶望に近い不安が、彼女を支配していた。
食後、自室に戻ろうとした佐々木に、リベラが耳打ちした。
「佐々木様、カミーユさんがお呼びです。彼女の部屋へ行ってください」
佐々木は少し緊張しながら、彼女の部屋の扉を叩いた。
部屋に入ると、カミーユはがらんとした空間でポツンと座っていた。
「佐々木さん⋯⋯。もうすぐ、お別れなんですね」
消え入りそうな声で、彼女は悲しげに話し出した。
エイドスに残れと言われる覚悟を決めたような、震える声だった。
「えっ? お別れ? そうなの?」
佐々木は素っ頓狂な声を上げた。
「リベラから、カミーユさんは今後、僕の専属秘書としてずっと横でサポートしてくれるって聞いてたから⋯⋯。正直、すごく安心してたんだけど」
「えっ! そうなんですか!?」
カミーユの顔が跳ね上がった。
驚愕で目を見開く彼女に、佐々木は少し照れながら続けた。
「うん。カミーユさんは僕の事を考えた提案をくれるし、隣にいてくれるとすごく安心だなって思ってたんだよね。だから⋯その、勝手にこれからも一緒だと思ってた。残りたいって言われたらどうしようかと⋯」
「佐々木さん⋯!」
不安が霧散し、喜びが爆発した。
カミーユは勢いよく佐々木に抱きついた。
「じゃあ私、ずっと佐々木さんのそばにいます! どこへでもついて行きます!」
勢い余って、2人はそのままベッドへと倒れ込んだ。
翌朝、佐々木が目を覚ますと、視界いっぱいにカミーユの顔があって飛び起きた。
「うわっ! どうしたの、そんな至近距離で⋯」
「あ⋯すみません。目が悪いので、佐々木さんの顔を近くでじっくり見てました」
カミーユは少し顔を赤らめながらも、昨日までの陰が嘘のように幸せそうに微笑んだ。
その日の朝食。
ギルバートが「今日も頼むぞ、カミーユ」と、いつものようにサポートを依頼した。
だが、カミーユはそれをきっぱりと断った。
「すみません。私は佐々木さんの秘書なので。これ以上、佐々木さんをひとりにはさせておけません」
毅然とした態度のカミーユに、ギルバートは「なんでアイツはこんなにモテるんだ」と苦笑いし、佐々木はまたしてもオドオドしながらコーヒーを啜った。
⋯
それから3日後。
すべての準備が整い、佐々木、リベラ、アイリス、サラ、そしてカミーユの5人がエイドスを離れる日となった。
「セレノグラフィアに寄るなら、アヴァロンへは同じ頃につくかもな」
「うん。じゃぁギルバートも引き継ぎ頑張ってね」
佐々木とギルバートは別れの挨拶を交わし、佐々木はスターゲイザーに乗り込んだ。




